昭和の風林史(昭和五四年六月二〇日掲載分)

2017年06月27日

運不運の問題 見えぬ時は見えぬ

自分の運勢がよい時と悪い時と、これは誰でも判る。相場は帰するところツキの問題だと思う。

「地蔵堂霖雨晴れたる羽蟻哉 月斗」

相場を仕掛ける時の気分というものは、実に頼りないものだと思う。

たとえば「戻ったら売ろう」と考えている。

相場が急反発すると、「戻りは売ろう」と考えていた人が逆に買ったりする。戻し方が、思っていたよりもきついから買ってみた。

いや、相揚が変わったのだ。戻りでなく、出直りになった―など、理由はどうとも付く。

輸入大豆相場を見ていても、売っていた人、ストップ高が解けたら、ともかく踏もう(煎れよう)と決意していたが、ストップ高がほどけて、少し安いとももう少し様子を見る。

ともかく相場というものは、今古東西を問わず「高いと買いたくなり、安いと売りたくなり、動かないと判らなくなる」ものだと思う。

高いと買いたいで買うと損。

安いと売りにいで売ると損。

それなら、買いたいところで売る。売りたいところで買う。それなら儲かるだろう―というのは、これは理屈である。

第一、そのような事は精神分裂症か、余程の二重人格の人でないと、終始出来るものでない。

ある人が、係のセールスマンに、くれぐれも念を入れて「私が10枚売り―と注文を出したら、必ずその反対の10枚買いの注文を通してくれ」と頼んだ。

セールスは、いくら近しいあなたでも、そんなことは出来ないと、ことわった。紛議にならないとも限らないからである。

もしそれを仮りにセールスが実行するとしても、注文を出す段になって、「10枚売り」と出せば、「10枚カイ」になるのだな―と、自分で決めた仕組みを判っているだけに、注文を出す時の心理は、素直なものでないから、裏の裏を考えたりして、混乱してしまう。

とかく相場は難かしい。

思う事は、自分の運勢のよい時と悪い時があって、運勢のよい時がくれば、普段のつきあいや精進、努力をおこたらぬ限り、相場が見えてきて必ず儲かる。

要するにツキである。ツキからはなれる。ツキを呼ぶ。

相場の当りはずれは、帰するところ、それだけなのかもしれないと思う。

ツク、ツかぬはバイオリズムで波があるけれど、昔の人は、本人の心がけ次第だ―とも言った。

●編集部註
 昭和五十年六月から一年で小豆価格は倍になる。

 翌年二月、相場は三万 六五〇〇円超え目前で失速。十カ月で半値近くになるも今度は半年で七割強戻す。そこからの反落は二万円割れ寸前で切り返すも七千円戻した所で力尽き、二万五〇〇〇円が売買の川中島であった。

昭和の風林史(昭和五十年六月九日掲載分)

2017年06月26日

小豆に暴落線 噴値売りに妙味

小豆は目先暴落線が出ているだけに飛びつき買いは危険。手亡は目先ある程度の反発が可能。

「五月雨や女の裾のしだらなき 静堂」
手亡相場に対する人気は弱くなったことから、目先反騰があるかもしれない。

数日来の相場環境は、およそ次のようだ。

①カネツ貿の〝提灯買い〟筋が投げた。

②静岡筋も戦線を縮小していた。

③市場の玄人筋は10月限売り、11月限買いのサヤ取り。

④大衆筋は
(イ)買っては利食い、買っては利食いで回転のきいていた筋は高値掴み。
(ロ)売って引かされていた筋は売り上がって下げを利食いして売り直したが、安値の売りと、突っ込みを売った玉がまだ生きていない。

⑤人気全般は気迷い。

⑥小豆に移動しようとしている。

⑦売り大手は買い仕手の巻き返しを警戒しながらも長期方針の構え。

そういうことから、やや人気が弱気に傾き、売り込みの感じがするだけに目先的には強力な反発がはいっても不思議でないところに来ている。

しかし、大衆的にはどこまでも売りの相場だ。

線型(9・10月限)は上げ幅の半値押し地点だけに、これからの下げには、その前に下げた幅の半値ほどを戻してもう一度人気を強くしたいところである。

行く行くは四ケタ相場の山川草木ピービーンズばかりなりになるだろうが、ここに今までとは違って、小豆相場の展開が手亡のほうにも絡むだけに相場の波動は複雑になる。

小豆は新穀相場一本に絞って、総体に買い場待ちの姿勢である。

目先としては十五日前後の気象状況にもよろうが、二万一千円台は、なんとなく〝むせっぽい〟。

六月5日の先限日足線はいうところの〝暴落線〟で4日の強烈陽線にかぶさり六日の下寄ってからの陽立ちにしても、なんとなく自然でない。

そういう暴落暗示の線型に対して地場の巧者筋が、作付け面積の大幅減反(四万八千ヘクタールから四万五、六千ヘクタール)予想と先行き天候の不順を、どうの程度価格テクニックで陽動し、人気の花を咲かせるかである。

需要不振という趨勢は改善されていないことから高値飛びつきは危険。あくまでも二万円割れあたりを買いたいところ。

●編集部註
押し目待ちに押し目は来ないのが相場である。

買えない相場が強いというも道理である。

「迷いの門から正信まではただの一瞬」とはオマル・ハイヤームの言。

「迷わず行けよ行けば分かる」とは一休宗純の言である。

【昭和五十年六月七日・休場】

昭和の風林史(昭和五十年六月七日掲載分)

2017年06月23日

天に向かい嘆息 将軍戦いを語らず

買い仕手に期待をかけて投げきれない。士卒天に向かいて嘆息す。将軍むなしく戦いを語らず。

「鮎掛や浅間も低き山の中 碧梧桐」

穀物相場の大衆投機家は手亡相場から離れようとしている。激しく動くが、もうわけがわからんという。

新穀と旧穀のサヤ。ピービーンズの新旧別の格差。仕手筋の動き、前五本と先限の違った相場―。

掴み難いものが多い。

自然人気も離散する。

静岡筋は手亡戦線から後退し、再び生糸、乾繭市場に転戦する気配である。

またカネツ貿の買い仕手はグリコの株(仕手戦)で巨大な利益を挙げた某氏とも噂され、あるいは群馬県の某々氏らしいとも言われる。

果たして買い方主力のカネツ貿が、どこまでこの風向きの変わった手亡相場に耐えられるか。そのことに関心が集まっている。

カネツ貿の若林会長は気骨のある華麗な相場師である。市場では昔、黒糖仕手戦で一年二カ月にわたって現受け作戦に出たという実績を評価し、恐らくこの手亡仕手戦も、受けて受けて受けまくるのではないかと買い方は期待するのだ。

しかし、仕手戦が激しくなり相場が過熱すれば規制の強化も考えられ、自から行動に制約を受けよう。そこのところがつらい。

この時、手亡相場そのものを見れば、線型は明らかに天井を打っている。

仮に10月限売りの11月限買いで新旧のサヤ取りをするとしても10月限に集中するピービーンズは新穀限月にも必ず影響をもたらすことでそれが50年度大手亡の作柄・収穫高に強弱が絡むとしても大勢的にはピービーンズ輸入を刺激しただけ悪さが尾を引くと見るべきだ。

しかも手亡の先限はその線型に暴落線を刻み、これが六月5日の戻りを二番天井として四千円割れ→三千円割れに将来陥没していくことは、火を見るより明らかな事である。

10月限、九月限また落潮滔滔として四ケタ相場に埋没する運命。

今となっては若かった相場も、激闘の消耗に疲れ老いた感じがただよう。

三軍ことごとく衰老という場面だ。買いちょうちん筋は天に向かいて悲しまん。士卒草芒にまみれ将軍むなしく戦いを語らず。

すなわち知る。仕手戦なるもの是れすべて凶器。

已むを得ずしてこれを用いるも市場荒廃し、投機家離散す。

●編集部注
中立に分析記事を書くという所業は存外難しい。

内部外部の要因であれ、テクニカルであれ、強弱どちらかに傾きがちだ。

故に傾いても、反対方向に敬意をもって文章を書くよう心掛けている。

売り方にとって、この時の買い本尊は不倶戴天の敵。恨み言の一つでも吐いて留意を下げたい。

しかし、買い方にとって彼は文字通り後光が差している本尊なのである。

相場未体験者が多い証左か、嫉妬の国日本では、兎角相場の勝者に冷淡だ。リスクを取った勇気を称えるより「うまい事やりやがった」という心理が先に来る傾向が高い。

【昭和五十年六月六日小豆十一月限大阪二万〇九二〇円・二一〇円高/東京二万〇七九〇円・一七〇円高】

昭和の風林史(昭和五十年六月六日掲載分)

2017年06月22日

売り一本勝負 六月微塵崩しだ

小豆は下げてから買えばよい。このまま行くわけではない。手亡は強く見せたところを売る。

「オリーブの落花真白に梅雨曇り 嶺花」

作付け面積四万八千ヘクタール予想で小豆相場が二万円抜けに走った。

本年の天候相場の本命はもとより小豆の買いである。

しかし、いまこの小豆を飛びつき買いするのは、なんとなく〝むせっぽい〟。

カラ売りしないまでも、安いところを待つ。

それには、手亡の取り組みがほぐれて、小豆に人気の移る場面があろうから、人気の趨勢を見守る。

山梨商事の霜村昭平氏四日大引け後の時点で『小豆は新穀をザラバで65車と定期の買い勘定になった。これは種玉である。天候が悪ければこの種玉を中心に積極強気に出るし、天候がよければこれは売りの実弾にする。今の時点では常識的だが小豆新穀買いが今年の本命と見る。いずれ手亡の人気が離散して小豆が花形になろう』。

『手亡に関しては方針不変だ。要するにサヤがないから11月限につなげない。そして10月限売りの11月限買いという人気である。これは11を売るのが怖いからだ。しかし相場は人のやる事を真似していては勝てない。私は人と逆に11月限を売る。もちろん11月限に渡す荷物の手当ては充分な自信を持っている。11のサヤが無い事から売り方は10月限に集めるだけ集めた現物を全部渡しきりにしよう。

買い方は玉をすかしているようだが、静岡筋の買い値平均は一万二千五百円前後。これを逃げるには11月限の一万五千五百円につないでトントン。果たしてつなげる値が出るだろうか。

12月限は、これは小豆も手亡も下ザヤ発会になる。今からそれは断言できる。人々は12月限手亡の下ザヤ発会を見て初めて熱に浮かされていた事を知ろう。いまは酔っぱらっているようなものだ。

思うに手亡の買い方に対し尨大なちょうちんがつきすぎた。これが致命傷だ』―。

11月限手亡はサヤ関係でピービーンズはつなげないが、北海道の新穀を集める気なら怖くない。また10月までに集中して入荷したピービーンズが国内にウズを巻けば相場市場は惨澹たる様相に陥る。

ともあれ、この手亡相場は先三本、腹を据えて売り勝負でよい。買い方総崩れが見えているのだ。

●編集部注
相場とは全く関係ないのだが、この欄を書くために過去の出来事を調べると。驚きと懐かしさに包まれる時がある。

最近カールの生産縮小で話題になった明治製菓が「きのこの山」の販売を開始したのはこの年だ。

ちなみに「たけのこの里」が販売されるのは四年後の昭和五四年である。

【昭和五十年六月五日小豆十一月限大阪二万〇七一〇円・二一〇円高/東京二万〇六二〇円・二〇〇円高】

昭和の風林史(昭和五十年六月五日掲載分)

2017年06月21日

続落の場面へ もとの木阿弥だ

気がつけば山川草木うたたピーばかりという事になろう。完全に天井した手亡だ。続落の運命。

「まひまひや菖蒲に浅き水車尻 蛇笏」

小豆と手亡。手亡の期近と長期限月。市場別の手亡―という具合に、てんでばらばら、君は君、われはわれという動きを見ていると、どこに相場の芯があって台風の目玉がどちらに向かおうとしているのか掴み難くなる。

手亡の買い主力は静岡筋とカネツ貿という二眼レフ。片や売り方は期近限月買いの長期限月売りという布陣。

そして名にしおう静岡筋の〝栗田ファミリー〟の玉と大衆のちょうちん。

しかし、荒れている相場も遠くから冷静に眺めておれば自ら行くべき道が判ろうというもの。

手亡の仕手相場は天井していること。

そして加工の大相場の末期(天井圏)に見られる典型的な逆襲巻き返し線が出ていること。

日足線型も大暴落型で押したり戻したりしながら続落する。

人気面は仕手筋に期待をつなぐ買いと、先行きの天候相場に勝負を決しようとする強気。

逆に、この高値を売っておかなければピービーンズ輸入圧迫で結局は、もとの木阿弥になると見る弱気。

いうなら混戦である。

筆者は九月限、十月限で一万一千円→二千円→三千円と大台を三ツ替わってS高四発の〝五空飛び放れ〟相場をしてきただけに、下げの〝大台三ツ替わり〟即ち九、十月限で三千円→二千円→千円割れの行ってこい相場だと思う。

一部に半値押し地点(大阪10月限一万二千円地点)で反騰態勢に移り、第二ラウンドを期待する向きもあるが、上げ方が急な鋭角(87度)だけに相場上昇エネルギーの燃焼は早く、〝五空打ち上げ〟のロケットは、すでに燃えがらである。

明らかに、ひと相場を終わった―と見るべきでなかろうか。

先に行って判る事と思うが、戦い済んで気がつけば山川草木うたたピービーンズばかりということになりはしないか。

思えば一局の相場だった。これからは戻しては崩れ戻しては崩れていこう。

思い出したように買い方の逆襲もあろうが、すでに大勢は決している。

戦い済んで日が暮れるまでにはまだ時間があるが明るいうちに売っておく。

 ●編集部註
 この当時はどうであったのかはわからないが、風林火山が執筆しているフロアには、終日クラシック音楽が鳴り響いていた

 まるでワーグナーのワルキューレの騎行が聴こえてきそうな文章である。

 なおこの曲が印象的に使われた「地獄の黙示録」は昭和五四年公開である。

【昭和五十年六月四日小豆十一月限大阪二万〇五〇〇円・六七〇円高/東京二万〇四二〇円・五一〇円高】

昭和の風林史(昭和五十年六月四日掲載分)

2017年06月20日

逆襲高あれば 積極売り大丈夫

大名行列お国帰り。だが逆襲高もあろう。買い方巻き返しで強烈高あれば、すかさず槍を入れよ。

「何の世のはかなき夏のひかりかな 万太郎」

『手亡の9月限、10月限の三千七、八百円どころを、お客さんは嫌というほど買った。それまで利食いしては買い、利食いしては買いで回転が利いていたが高値掴みになった。小豆も棒立ちした高値を掴んだ格好です』。

だいたいどの取引員も同じようなパターンである。

『カネツ貿が31日(土曜)あの高値で二千枚近く買ったのがキズになった感じだ。あれだけ買って値段がいうことをきかなかったのは相場が限界点にきていたからであろう』。

S高で飛んだ地点をS安で下げる。10月限の日足線は〝五空飛び放れ〟で相場そのものが過熱していた。指標ともなるべき目立った大衆店の売り玉が、どんどん減って(煎れて)、買い玉が表面に出た―。

という事は、高値で踏んでドテン買いの人気になった。この、ちょうど逆が五月九日の前後であった。

ここで、仕手戦の末期に必ずケイ線に出ている逆襲高がはいれば、抜く手も見せず、これを売って取れる。

30日を頭に新ポと次の日の二連発のS安は千丁崩し。この下の値段からS高の逆襲がはいれば、人気は沸いて〝第二ラウンド突入〟とばかり買い方は意を強くしようが、大天井における過去の線型は、必ず二番天井型で、あと再び続落している。

すでに手亡の相場としては値を出しきっているのであるから、またもピービーンズの相に戻って大名行列お国帰りだ。

ただ、天井を打ったとはいえ強力な買い方が存在しているだけに、千五百丁ないし半値の二千丁下げをした地点で①投げものが出て②売り込み③弱人気充満となると、これは買い方巻き返しのチャンスで千丁戻しぐらいはあるだろう。
光は西へ下り超特急一本道―と見るわけにはいかない。

抜刀隊の歌にもある。

『…敵の大将たるものは古今無双の英雄で、これに従うつわものは常に慓悍決死の士、鬼神に恥じぬ勇あるも…』と。

S安の二、三発は、もとより覚悟の買い陣営だ。

従って、強力な強襲高があるべきだ―という方針でその逆襲高に槍を入れる。

●編集部註
 昭和四七年六月、会見場から新聞記者を追い出し、テレビカメラと一対一で退陣会見した佐藤栄作がこの月に急逝した。

 葬儀は国葬となり、その席で当時の首相三木武夫が暴漢に襲われる。

【昭和五十年六月三日小豆十一月限大阪一万九八三〇円・五九〇円高/東京一万九九一〇円・六一〇円高】

昭和の風林史(昭和五十年六月三日掲載分)

2017年06月19日

硬軟熱くなる 抜刀隊の白兵戦

手亡相場は抜刀隊のぶつかりあう白兵戦になった。S安、S高、殺気がみなぎる一大絵巻。

「いちご熟す去年の此頃病みたりし 子規」

手亡相場は炸裂の乱戦場面を迎えた。

大衆筋は高値に来て買いついた(踏みも出ていた)。『買い方仕手筋は一万九千円を付けると豪語しているそうだが』―と市場で噂されているが、人気がそれを言わせるぐらいだから、かなりの強気がふえている。

店の懐ろは〝旗〟になったところもある。

しかし乱高下の白兵戦で抜刀隊がぶつかりあう場面だけに、S安→S高→S安と値動きは目まぐるしいだろうから懐ろ玉も〝持ち〟になったり、その日のうちに〝旗〟になある。

総取り組みのが膨れるだけ膨れての血を見るような激闘だけに、売りちょうちんにしろ、買いちょうちんにしろ、腹を据えてかからないと、ぶっ飛ばされよう。

聞くところ今回の仕手戦のキッカケ、即ち〝蘆溝橋〟の銃声一発は、大量買い玉を擁するカネツ貿(若林会長)は、薄商いの市場で売り方山梨商事(霜村社長)が、バンバン売り叩くのでたまったものでない。なにをこのやろう―、自社の顧客を思えば当然おこる相場心理だ。

カネツ商事の清水会長は『一月から四月までにカネツ貿易の手亡買い建ての証拠金(預り)は二十億円から十五億円に減った。減った五億円は売り方山梨の懐に入った勘定だ。店としてはお客さんを擁護するため〝場勘〟で取られるなら現受けで防御しようと考えた。一回S安が入ると二億円が飛んだ。それならいっそのこと毎月、毎月五百枚の現受けで現物投資で天候相場を勝負しよう。カネツ、カネツ貿は全力あげ、わが社の顧客を支援するのだ』―と。

おりからの静岡筋が買いに入った。売り方山梨は奇襲を受けて五月限を二千丁担ぎあげられた。

手の内のカードが読まれていたようだ。スリーカードで勝つと見ていたのが相手はロイヤル・フラッシュだった。勝負師としては頭に血がのぼるところだ。

カネツ貿の若林氏は常に冷静な勝負師である。そして『手亡は叩かれ過ぎた。正当な値段ではない』と言っていた。その信念を貫き『久しぶりでやった』と語る。早受け二百枚。東穀協会長店も加わって場面は最大にエキサイトする。

●編集部註
この文章、どこかで見たような光景だと感じた。

昭和三七年に発表された梶山季之の小説「赤いダイヤ」で同じような構図があった事を思い出す。 

事実は小説より奇なり。

ちなみに、この小説が角川書店で文庫化されたのは昭和五十年である。

【昭和五十年六月二日小豆十一月限大阪一万九二四〇円・東京一万九三〇〇円】

昭和の風林史(昭和五十年六月二日掲載分)

2017年06月16日

買い方自壊し 音たてて崩れん

ピービーンズで袋叩きという場面を見るだろう。手亡相場は音立てて崩れ落ちよう。

「瓜苗に竹たてありぬ草の中 虚子」

取引所のフロアーの温度が上昇を続けている。

小豆、手亡ともに売り方買い方熱くなった。

感情の火花が炸裂している。久しぶりに見る大きな勝負だ。

週末の一節手亡でカネツ貿が10月限八五〇枚、カネツ二〇〇枚の強烈買いの手口が目立った。

また雑豆輸入商社の三晶が10月限を一五〇枚と纏まって売り、過去に仕手戦を幾度も経験してきた山大が二〇〇枚売った。

山大の関口営業部長は『お陰様で小豆の買い玉はピークを利食いさせてもらった。お客さんは気分的にも明るい。そこで手亡の相場が、どう見ても実勢から離れ過ぎているので、これを弱気してもらった。買い方は、高値を支える格好に見える。われわれも過去に何度か経験してきたが、いまの買い方の相場心理状態は嫌というほど判る。あける時はあけ、ふるい落としを入れる時は入れる―という事が、玉の膨らみにつれて大きな負担になる。高い水準と尨大なちょうちん。場づらの面では、どう見てもこの相場モロイ感じがした』。

これだけの大きな取り組みである。あるだけの現物を受けて、値段を煽れば、ある程度のいう事を相場はきくが、それは相場の若いうちで、29日のストップ高あたりから、買い方に強引さと無理がはっきり見えてきた。

そして30日の相場など、小豆崩れになびかぬよう懸命な買い支えが判然と見えた。

市場の人気では、一万五千円とか、11月限の一万九千円という噂がもっぱらであるが、人気と相場は別のものである。

買い方の三市場に置ける玉操作や価格チェックを見ていると、戦いの山場は過ぎた感じだ。

〝熱くならない仕手〟と言われても、激戦のさなかになれば、もちろん闘志は満々、殺気立つのが仕手戦である。人々はその興奮を楽しむために相場をする。

すでに買い方は六千枚を超える買い玉である。

果たして巧妙に勝ち逃げ出来るであろうか。その答えは「ノー」である。

玉をさらにふくらませていけば、遂には自壊するのが買い占め戦の宿命である。買い仕手はピービーンズに魂を抜かれるのであろう。

 ●編集部注
 一騎駆けは合戦の華であると、隆慶一郎の「一夢庵風流記」にある。

 当時の商品先物取引はザラバでなく板寄せが主流。さすれば、各節でのストップハナ取りは相場師の一騎駆け」に等しい。

【昭和五十年五月三一日小豆十月限大阪一万八三三〇円・九〇円安/東京一万八四七〇円・六〇円安】

昭和の風林史(昭和五十年五月三十一日掲載分)

2017年06月15日

新ポから惨落 勝負すでに決す

手亡の仕手戦は山を越した。買い方の反撃は猛烈であろうが輸入商社との勝負に勝ち目はない。

「仏法僧翼の紋の翔けて見ゆ 秋櫻子」

山梨商事の霜村昭平社長は六月一日の鮎の解禁が待ち遠しい。一日千秋の重いというべきか。

それと六月二日の新ポ。

待ってました―と観衆から声のかかるところだ。

霜村氏『私は十一月限発会から土俵にあがる。今の手亡は買い占め戦で、この結果は見えている。買い方には大きな誤算があった。それは、もうピービーンズは入らないと見たことだ。私は海外の白系雑豆供給が根底から改善されれば考え方も変わるが、今のところなんら海外の需給事情に変化はない。従って、私は六月二日新ポから決然と土俵にあがって、来年三月まで一本道の売り勝負をかける。相場は終局四ケタになる。買い方は、もはや抜けられない。それは輸入商社を相手に勝負を仕掛けた格好になったからで、日本中のピービーンズを彼は抱く結果になろう』。

陽動のために煽った格好の小豆相場は、早くも折れてきた。大衆筋も小豆の噴き値を思い切り買いついた。この結果は、やはり大幅崩れによる整理を待つしかない。

手亡のほうは買い占めの常道で北海道を逆ザヤに持って行き現物が消費地相場に流れ込むのを防止しているわけだが、これとて新ポ11月限が登場すると、今までのようなわけにいかなくなる。

売り方の主役・山梨の霜村氏は今まで声を発しなかった。

だがいま、六月新ポから土俵にあがるという。主役登場、待ってました、大統領―というところである。

静岡筋の買い玉がおよそ六千枚。そして世に名高い〝梨田ファミリー〟のちょうちん玉がどれだけあるか。

勝負は、すでに決まったようなものだ。

三晶の六月に入荷するピービーンズの第一弾。七月発券(七〇〇万㌦予想)一万㌧契約。古品ピービーンズの積極輸入。

もはや買い玉はグルリを取り巻かれ脱出出来ない格好である。

そして買い方が日本中のピーを一手に抱かされる結末は、奈落の底の五千丁崩しとなろう。

手亡相場は売りあるのみ。S高で上げたところは全部S安で落ちよう。

買い方の道中における反撃、これみな急所の売り場になる。相場は山を越した。

●編集部註
 銘々がこの機会に金を投じている。まさに投機。

 昔は板寄せが取引の主流で、節ごとに鮪のセリのような怒号のやり取りが繰り広げられ、価格決定で本当に板が鳴った。

【昭和五十年五月三十日小豆十月限大阪一万八四二〇円・七〇〇円安/東京一万八五三〇円・七〇〇円安】

昭和の風林史(昭和五十年五月三十日掲載分)

2017年06月14日

惨たる結末が 見えている相場

世人を唖然たらしめただけという事になろう。仕手戦のとがめは惨たるものがある。売り続行。

「蜻蛉生れ水草水になびきけり 万太郎」

手亡ストップ高で、バスに乗り遅れるなの人気が小豆相場を走らせ、ストップ高に買われたことは、相場の人気というものの一面を見る思いがした。

人気はひと場で急変する。

買い声につられ、走る値につられ、買いが買いを呼ぶ。即ち群集心理である。

手亡の仕手戦。小豆の天候相場。場面はにわかに殺気だってきた。

手亡の値段。仕手戦とはいえ、明らかに行き過ぎた地点である。

大衆店に買い玉を這わせ、大衆の売り玉が踏んできたところでバイカイをふる。

一種のダミー戦法であり、ダミー会社の上前をはねる積極攻撃型である。

期近限月を売って長期限月を買う。

古い相場師には考えられもしなかった〝奇手〟である。

先々を買い煽っていく方法は48年の板崎相場で使われた戦法。これも併用されている。

ひと昔前の穀物の仕手戦は〝毒饅頭方式〟といわれた。

当時、仲買店の向かい玉は自由であった。

顧客の玉を常時向かう大衆店で資金面も大丈夫なところを選んで小口に割った玉をはめ込む。

玉は充分にはまった頃合いを見はからって相場を煽りあげ、踏みをとる。

〝毒饅頭方式〟の仕手戦は仲間内を食うので、いろいろなシコリが尾を引いた。

二千円台に乗せてから29日の寄りで〝三空飛び放れ〟である。千円台のを入れると〝四空〟だ。

一万一千円から二割高。高下とも五分一割に従いて二割、三割向かう理と知れ。

日足線で新値11本。

日柄と値段とで限界一杯の売り場をつくった。

梅雨の前の納会に受けた現物の品いたみと金利、倉敷を計算すれば少々の煎れを取るぐらいでは採算に合わない。

六月ピービーンズの大量入荷。七月発会。

雑豆輸入商社は、一万三千五百円の相場なら輸入して五割~六割儲かる勘定から買い方はピービーンズ輸入促進に拍車をかけた。

単に、人気の裏を衝き市場内部要因の間隙を縫って世人を唖然たらしめただけの相場である。

市場人気は一転して強くなった。仕手戦に焦りと無理が見えだした。

決然売りでよい。

 ●編集部注
 時代の転換点は後から分る。当時は分からない。

 相場に限らず、昔からの手法が通用しなると、新手法が登場する。

 今のリクルートの前身会社が首都圏で「週間就職情報」を発行したのはこの年のこの頃である。

【昭和五十年五月二九日小豆十月限大阪一万九一二〇円・六〇〇円高/東京一万九二三〇円・七〇〇円高】