昭和の風林史(昭和四八年六月九日掲載分)

左すれば奈落 右すれば二万円

押し目買いに転換する。弱気するのは間違っていた。下げて千丁。もとより成り行き買いだ。

「十薬を抜きすてし香につきあたる 汀女」

ここまでくると買えないし、さりとて売るのも怖いという小豆相場である。

強気は、今まで儲けてきただけに、利食いしたあと押してくると、大胆に買ってくる。

とりあえず一万八千五百円。そのあと深く押して千五百円ないし二千円下げ。

その相場が二万二、三千円から二万五千円に火柱を立てるだろう―と見る見方。

この場合、十二、三日ごろの冷え込みが当面の刺激材料で、踏み一巡。あと高値警戒など。規制強化も懸念され利食い売り先行して千五百円ないし二千円下げは、本年最後の大相場実現のための押し目になろう。

買い大手桑名筋が降りた以上、次の大暴落は、抑えるものがない。

そういう見方。

弱気は在庫六十万俵と作付け面積の大幅増反。売り方の踏み一巡。発芽順調。高水準。高値警戒人気。曲がり屋が強気してきたことなどから、今の高値圏での大きなゆさぶりは、あくまで天井圏での〝なぐれ〟と見て、今少しの辛抱という。

手が合わないと、まるでお医者の車ひきになる。悪いところ悪いところと回らねばならない。

売れば高く、買えば安く、踏んだら天井、投げたら底。

ほとほと我ながら嫌になるもので、頭をかかえる。

それじゃいけないと気を取直す。軍曹前進せよ。

東京を久しぶりで回ってみた。東穀の受け付けに綺麗な紫陽花が活けてある。鈴木理事長の庭に咲いた花を理事長が持ってきた。紫陽花の濃き夕光に女去る(直人)。

川村の店は活気がある。お客さんが当たっているから回転が早い。山大の杉山社長は〝進み過ぎた腕時計〟を持っているかのような顔つきだった。

駄目だよ、こんなところで強気になっては―と丸金の名物男・松本氏は言う。天井だよ年内の…と。山文の秋山素男氏は次の押し目を強烈強気すれば、五、六千円高を当てられる。大天井は七月中旬過ぎ。それまで買いあるのみ―と。高橋茂氏は飛行場で一番偉い人は誰だろうと現代組織論の勉強中。内田享氏は席の温まる間なし。相場のほうは左すべきか右すべきか。左すれば奈落の底へ、右すれば二万五千円。

●編集部注 
 九日と、その前後のローソク足にご注目。罫線の教科書に載る線形である。

【昭和四八年六月八日小豆十一月限大阪一万七八九〇円・五七〇円高/東京一万八〇五〇円・四八〇円高】