昭和の風林史(昭和四七年十二月四日掲載分)

取り組み重し 厳然売りのまま

高値買いつきの取り組みは、きっと反落の要因となろう。売り線続出の小豆は急落しよう。

「かりに著る女の羽織玉子酒 虚子」

大衆の小豆買いが、すさまじい。

しかし、ムードで買った反動は、決して軽くないだろう。

週末の小豆の引け味は、今週大幅安を暗示させた。

仕手系統の大石の手が意識的に買いの手をふっているのが目についた。

しかし、今週、崩れるように思える。

強力陽線を立てて、上から陰線二本のかぶせは、〝二羽揃いつばめ返し〟で買い線とされているが(大阪四月限)、二、三月限の高値に現出の錨型陰線は暴落を示すものである。

市場人気は確かに強い。だが、強いのは大衆筋だけである。

一万円以上は、現物事情を考えると、危険な場所である。

月末、下げた相場を強烈に折り返した。しかし前の高値が抜けず、頭を揃えるに終わった。電光足なら新ポの頭が売りになる。

週棒は先々週に売りが出ている。

しかし、人気というものは片寄ると怖いもので、集団リンチ事件なども、その時の一方に片寄った群集の感情がエスカレートして、行き着くところまで止めようがないのと同じで、西部劇映画などでも扇動された大衆が〝吊ってしまえ〟と騒ぎだせば、理も非もない場面がよくある。

今週も仕手がかった手が作戦をするかもしれない。陽動すれば、大衆は再びその場の空気で飛びつくだろう。

だが、現物は声を殺して集中しつつある。五日の在庫発表が目先の山場であろう。

判らない時はケイ線を逆さにして見よという。各限それぞれ一代棒を逆さにして眺めれば二点底、すなわちこの小豆相場売りである。

年末需要最盛期。売れて当たり前である。ところが売れ行きは感心しないと言う。

こうなると、一体このムード買いには実勢が伴っているのかという疑問を投げかける。

インフレ買いだという。冗談ではない。ゴルフの会員権にも上値の限界がある。インフレ買いだ…と大根やトマトを買う奴がいるかと言いたい。小豆は株や油絵や宝石ではないのだ。

●編集部注
 怒っている。トマトのように顔を真っ赤にさせて怒っている。そんな印象を行間から覚える。 

 晩年の好々爺然とした立ち居振る舞いからは想像が出来ぬ、激しい文章である。とても後年「腹立ち商いすべからず」と自著に書いた人物の手によるものとは思えない。

 それだけ、むかっ腹がたったのだろう。紙面には見えないどこかで。

【昭和四七年十二月二日小豆五月限大阪一万〇一九〇円・六〇円安/東京一万〇二五〇円・五〇円高】