昭和の風林史(昭和四八年六月四日掲載分)

天井圏の動き 起伏はあろうが

お客さんは実によく売るというのが気にかかる。相場は天井型だが、あまり人気が弱いと踏まされる。

「訪へば胡瓜花もつ畑仕事 不忘」

お客さんは実によく売ってくるという。お客が売れば、相場は上か。そんな事は昔の事で、昔はよく地場筋の実力者たちが『どうだい君のところは?うちもよく売ってくる。そうか君のところもか。客はベタ売りだな。これで下げられたらかなわんな。どうだ、誰それのところも、彼それのところも、懐ろはどっさりと売られているので、ここで下げたら食われる。一丁ひねり上げるか。(産地の気温が)冷えたところで五、六百丁も放りあげたら煎(い)れてくるだろう』―なんてやっていた。

自社玉が規制されている現在、お客の売り買いに向かう店は現在ほとんどないと思う。だから、昔のような八十八条にふれるようなことはあり得ないし、あれば主務省も昔のようには黙っていなかろう。

お客は値ごろでよう売るわいという。

その事は、人気がそれだけ弱い証拠で、相場は人の行く裏に道ありだkら、人気の裏を考えなければならない。人気が弱ければ弱いほど、この相場は上値を残しているのだ―という見方が出来ぬこともない。

半面、見ていると先限など、よう買うわい。一人娘とする時にゃほいほい、親の許しを得にゃならんほいほい。小豆の高値を買うときにゃほいほい、それから強気を言わならんほいほい。きのうまで弱かった男が、きょうから強気に変わったとすれば彼は踏んで高値を買いよったな―という事になる。

彼は今もって弱気だよ―という場合、彼は安値を売って引かされているわけだ。

大阪穀取の増証問題について東京でも話題になっている。『理事長と協会長と市場管理委員会長の懐ろ玉はどうなっているの?』と、まず聞かれる。

『今はもう、そんなこと無いですよ』。

『いやぁー判りゃせん』。

懐ろが売られていたら強烈増証かけ一気に踏ませてしまう方法がない事もない。

追証、追証の上に増証とくれば引かされている側はとどめの一撃よ。

大阪穀取の市場管理は過去の信用のない実績を積んできているだけに中井新理事長も伊藤協会長、これから先行き、つまらん事に気を遣わなければならぬだろう。

●編集部注
 増証とは臨時増証拠金の事を指している。

 向かい玉と客殺しの悪いイメージがいつまでも黒い十字架となってついて回ったのが、日本の商品取引業界斜陽の一因であった感は否めない。

【昭和四八年六月二日小豆十一月限大阪一万六八二〇円・四〇円高/東京一万六九七〇円・六〇円安】