昭和の風林史(昭和四八年六月五日掲載分)

売り方声なし 煽りが利く場面

これからの上値が早いという人気になってきた。売った人はうんうんいいながら辛抱している。

「古池や花萍の昼淋し 鳴雪」

弱い人気を買い方は強引に買い進み、アッという場面。

産地低温をバックにしての力相場だけに、売り方は声も出ない。

値ごろ観は通用しないのだが、やはり値ごろで売って、頭を抱え込む人が多い。

ここから買うのは理屈ではない。

勢いであり、踏みである。ええいと買った玉がすぐ利になる。利食いしてはまた買う。こんなもの相場じゃないが、これが相場である。弱気は、水準が高くなればなるほど弱くなる。踏んでは売り、踏んでは売ってキズを深くする。

お客さんは売り込んだまま元気がない。

急所、急所を腕力で煽(あお)り上げるから、赤子の手をひねるようなものだ。

これで七千円が八千円ともなれば、人気を完全に強くしてしまい、踏みも出尽くしてしまうだろう。

そうしてこの相場が下げにはいると、高値で売り玉を踏んで強気に転換した売り手の悪い組が、下げ相場を押し目と見て、買ってくることになる。

週明けは東京市場で川村が強烈に買っていた。桑名筋の玉だろうと言われている。月末に、かなり利食いした桑名筋は市場の狭い名古屋での買い玉を利食いしようとかかって東京と大阪と北海道で陽動する格好だ。

いずれ物価に神経質な世論だけに、社会問題になりかねない。その時、悪者にならないよう、買い玉は少なくしておきたい。どうぞ帳面を見てくださいと言えるだけの準備をしておくことぐらい、誰だって考えよう。

名古屋の買い玉を、うまく利食いしたら、目立たない動きになるだろう。

産地は発芽期にはいる。テレビなどで北海道の寒さが強調される。世界的な異常気象も新聞でたびたびとりあげられる。

それで相場のほうだが、買い方が高値を欲しがっているうちは、思う値段がつけられる。また、売るなどいっても大衆も、長年相場をやってきた人たちはつい売りたくなる。売るから買い、買うから高い、踏むから高い、始末におえない。

値段はいいところに来ていると思うが、そう思うのがいけないのかもしれない。

●編集部注
 ここから五年後に公開される「柳生一族の陰謀」という映画を思い出した。

 ラストシーンで萬屋錦之介は江戸城で咆哮する。

 〝夢でござぁぁるぅ~〟

 この時売り方も夢でござると叫びたかったろう。

【昭和四八年六月四日小豆十一月限大阪一万七一九〇円・三七〇円高/東京一万七一六〇円・一九〇円高】