昭和の風林史(昭和四八年五月十五日掲載分)

沸騰高は必至 利食い後が高い

先限の四千四百円。当限の二千八百円が目先の目標値。この小豆相場はスケールが大きい。

「雲のうごく夏みかんみんな熟れる 一碧楼」

アメリカの商品取引所はストップ高が続く場合、制限値幅を拡大する。取引所の先物市場は、需要と供給が投合して、公正な価格を形成する場であるから、相場が続騰するにはそれだけの理由があっての事という考え方だ。

これが日本の場合だと、制限値幅を逆に縮小して五%の値幅制限を三%にしたりする。

もっともアメリカは商品取引監督局の監督が厳しく、特に価格操作についてはやかましい。大口投機玉についても、すべてチェックされているため、一プッシェル当たり六㌦56㌣の大豆が九㌦台に暴騰しても日本のように〝土俵があぶない〟などというナンセンスな騒ぎは起こらない。

大豆の九㌦という値段は普通の価格の三倍である。ミシシッピー川の大洪水とアンチョピー不漁が大豆相場を未曾有の高値に追い上げている。

農作物の不作の度合いで相場価格がどの程度の比率で騰貴するか、その目途になるものとしてキングの法則というのがある。十分の一即ち九分作で三割高。

八分作だと八割高。七分作で十六割高。六分作で二十八割高。半作だと四十五割高、四・五倍になるというのである。

仮に小豆一万円が平均水準とすれば、半作だとキングの法則では四万五千円を付けてもおかしくないわけである。一万円の十割高、二万円を付けただけで大騒ぎになる日本の小豆相場にくらべてアメリカはスケールが大きい。

週明けは戻り新値に買われた。押し目幅八百五十円の倍返し、九日の安値から千七百円上げは差期限で一万四千四百円。
当限で一万二千八、九百円は充分にとどく値段だ。

こうなっては売り方も心理的に攻められる。発芽前後の降霜一発で、なにもかもがパーになる。発芽後のきつい霜ならS高二連発の千四百円高。そういう怖さが、たえずつきまとう。

しかも札幌気象台と帯広測候所は月末から六月上旬にかけての遅霜を予報していては、売り玉を持つ人はろくろく眠れない。真夜中から明け方三時、四時に帯広、札幌へとダイヤルするのは〝豆屋〟ぐらいなものかもしれない。

●編集部注
 元NHKワシントン支局長の手嶋龍一が書いた小説に『スギハラ・ダラ ー』というものがある。

 作品中でCFTCに出向したFBI捜査官が登場する。それだけ価格操作は米国で重罪なのだ。

【昭和四八年五月十四日小豆十月限大阪一万三四九〇円・一〇円高/東京一万三四〇〇円・九〇円安】