昭和の風林史(昭和四八年九月十五日掲載分)

大勢買い一貫 目先押し目買い

大勢的に小豆相場は買い一貫である。目先的には彼岸にかけて底練りしようが押し目買いである。

「秋灯耳掻くマッチ折れやすく さかえ」

富士山が例年より24日の早く雪を冠ったのは九月八日朝である。小豆相場をする人たちは、この新聞報道で直感的に北海道の秋は早いと感じた。予報では連休明けの17日、18日ごろ北海道の一部に早霜があるかもしれないという。

九月に入って月曜日は3日も、10日もブラックマンデーだった。株式市場も商品市場も魔の月曜日だった。果たして17日はどうなるだろうか。

小豆相場は万人の予測を裏切って奔然と反騰していた。まるで初老の紳士が若い女の子を追いかけて、さらりと身をかわされたような間の悪さである。相場は艶然と笑っている。人の心を見抜いているかのようだ。

この相場がこれからどうなるかは、誰にもわからない。

ただ判る事は一番底がはいった―という現象と、人気の弱いことである。

これからなお高ければ、そんな馬鹿な事があるものか―と悋気することであろう。そうなると、小股の切れあがっているこのおきゃんな相場は、また意地悪く身を翻えすことだろう。

大勢的には白系豆の不足で安い小豆が現物面から見直される。ホクレンはいずれタナ上げするだろうし外国小豆は入荷しない。

また長い目で見れば鬼の笑う話だが来年の小豆の作付面積は大幅に減るだろう。農家は米、馬鈴薯、ビートなど収益性の高いものに転作する。まして来年昭和49年は凶作の回り年だし太陽の黒点活動も最小期に入る。

減反、凶作―というイメージと予想が投機市場に与える影響は、はかり知れないエネルギーを生み出し、しかも安すぎるという今の水準の印象は長期思惑の対象に直接つながってくる。

目先的には早霜、鎌入れ不足、秋の需要、海外における雑豆価格の高騰、そして手亡の暴騰と、小豆相場を刺激する材料に事欠かない。

ここで相場の内部要因は〝完全なる買い玉整理〟を済ませている。あとは彼岸にかけての底練りと売り込みを待つのみだ。

筆者は大勢的には遠大で、そして強力な強気方針を一貫すべき秋と確信するもので目先的には押し目買いがよいと思う。

●編集部注
 小豆相場の魅力に取りつかれた人は、気象に非常に敏感になってくる。

 小説『赤いダイヤ』でも主人公の相場指南役が褌一丁で海に入り、その水温から北海道の天候をはかる場面が出てくる。

【昭和四八年九月十四日小豆二月限大阪一万一六八〇円・四〇〇円高/東京一万一七九〇円・九〇円高】