昭和の風林史(昭和四八年三月七日掲載分)

押し目は買い 大崩落あり得ず

この値段から下は異常気象下の天候相場に向かって買われる小豆だ。また需要期にはいる。

「金堂のほこりの水に菖蒲の芽 立子」

神部茂氏は山本博康氏に『高橋(茂)君一人来てもらえばよいのでして、決して他社から(社員を)引き抜くような事はしませんし、させません』―と、キッパリ言いきった。

然るに児玉英一氏のところからも内田享氏のところからも、また西村博隆氏のところも、真玉明氏のところも高橋茂氏の引き抜き―ということで大きな波紋を投げかけている。高橋氏は『そうじゃないのです』と言う。聞けば彼も〝期待されすぎて〟苦境にあるようだ。神部氏も事、志と違って、同業他社に迷惑をかけることを極度に避けようとしている。だが世間はそう見ない。某社の場合など強迫して辞表を書かせいている事実もあり、それだと高橋茂氏は錆びた槍や、はげた鎧びつをかついだ部下を従え、まるで〝渡り奉公〟のボスである。

この種のトラブル、抜いた抜かれたは、抜く側にしてみれば抜かれたほうがぼんやりしているからだ―となるし、抜かれた側は仁義にもとるしルール違反だと言う。世は戦国の乱世。人の気は、いら立っているし治安はよくないし、弱肉強食、力が正義、指導的立場の取引所も主務省も市場管理の問題で頭が一杯だから業界の秩序維持に手が回らん。
思えば浅ましくもまた、なげかわしい現象である。

さて小豆相場は大手買い方が業界事情を考慮して買い玉を降りた。膨大なちょうちんがついていてその整理に入っているところ。

値段としては、まずこのあたりから下は、やはり天候相場を考えて、長期方針の買い物が潜行する。

まして他市場が、目の玉が飛び出るような高額の証拠金だし、新規売買を止められていては、業者としても営業の主力を〝残された市場〟に求めざるを得ず、ゴムと小豆、手亡に投機資金は集中せざるを得ない。

まして穀物は、異常気象下の天候相場を控えているし、これから需要最盛期に向かう。

巨大な買い方が降りて市場は一時のような緊迫した状況がほどけたけれど大崩れなしと見れば、再び人気化するのは火を見るよりも明らかである。
樹静かならんと欲すれど風やまず―の小豆である。

●編集部註
 四十数年前も、今も、勝負するのは人間だ。
 相場心理は変わらない。不思議と今と似たようなシチュエーションが出る。
 昔と違うのは渡り中間が減ったくらいか。対面営業がやり難い昨今だ。

【昭和四八年三月六日小豆八月限大阪一万四六九〇円・一七〇円高/東京一万四六五〇円・二七〇円高】