昭和の風林史(昭和五四年十二月十四日掲載分)

輸大自己玉変化 売り玉増勢の傾向

東・西両市場の輸大自己玉が売りになった。この変化は相場を考える上において重要である。

「うかうかと年よる人やふる暦 芭蕉」

輸入大豆の大阪穀取の自己玉は、長いあいだ売りより買いのほうが多かったが、売り買い接近したあと、売り玉が買いを上回った。

東穀の輸入大豆自己玉は相場が上昇段階でも、圧倒的な上長だった。

そしてここにきて更に売りが増え、買いは減少気味である。

東西両市場とも、取引員の自己玉が売りになったという事は、相場を判断する上で貴重な資料である。

取引員会社によってこの自己玉の扱い方は、まったく違う。

ある一定の比率で、顧客筋の売買に、自動的に向う方式、いわゆるスライドのところもある。

また、ダミー会社、あるいは傍系店を利用したものもある。

会社が、まったく自己のリスクで相場を思惑する当業者取引員の自己玉もある。

自己玉には枚数あるいは比率による規制がある。

しかしこれは、別法人、別名儀等で、抜け道を探せばどのようにでもなる。

商品取引員が当業者主義を建前とし、専業取引員も、『みなし当業者』の建前になっているから、自己玉は、なんら制約されるところはないが、これが建玉数を規制されていることから、ダミー会社、傍系会社間との預け合い、仮空名儀などが利用される。

自己玉が規制されているのは極端な客向いに弊害が出る事や、取引員の財務内容が悪化するのを防止するためである。

確かに自己玉は、顧客サービスになる場合もあれば、取引員会社の経営の支えになるところもある。しかし、そうとばっかりいえないところもある事は、主務省当局が一番よく知っている。

自己玉が取引員の経営内容を極端に悪化した例も多いし、決して顧客サービスでないやり方のところもある。だから、自己玉は、その使い方で毒にも薬にもなるのである。

相場担当の練達な商社マンは、取引員の自己玉を店の性格別に分析し、これをグラフ化して、相場内部要員の変化を知る有力な資料にしている。

これは輸入大豆に限らず、すべての相場についても言える事である。

投機家も『自己玉に強くなる方法』を研究されるとよい。玄人筋は、自己玉の推移、変化、傾向を、常に相場判断の重要なファクターにしている。

●編集部註
 自己玉が非公開になっている現在、残念に思う人もいれば、ほっとしている人もいるだろう。

 一部、手の内を晒して相場を張るのだから、むしろ今よりも公明正大であったと感じるのは筆者だけであろうか。