昭和の風林史(昭和五四年十二月十七日掲載分)

12.22(日刊版12月19日付)

歳末難儀道 雑感 イラン憎けりゃ…

アメリカの腹立たしさのホコ先が日本に向かってきた。坊主憎けりゃ袈裟まで憎し―は人の情。

「訪ひそびれしていしことも年の内 文三」

石油値上げ→金暴騰→円安。今年になって何回か繰り返してきたパターンだ。

イラン原油をめぐり、日米間が難かしくなってきた。

アメリカは、大使館の人質問題で、イランに対する国民感情がエスカレートしている。

イランの石油を買わないようにして報復の輪を縮めていこうとするが、日本がイラン原油を高値で買っては、報復の効果がない。

日本は、なんとしても石油を手当てしなければならない。アメリカは、そういう日本に、腹立たしさの矛 (ほこ)先を向けてきた。

不買同盟をしようというのに、同盟者のような顔をして、裏から大量に買っていては、裏切り者めが―となる。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという言葉がある。

アメリカは人質さえとられていなかったらイランに対してもっと強い手段に出ただろう。

なんとも腹立たしい気持がよく判る。

そのはけ口を、これまた腹立たしい日本に向けてきた。日本は、強そうに見えて弱い。アキレス腱が、どこにあるかを知っている。

日本からの輸入には50%の課税をするぞ―と。ていのよい輸入禁止である。

国防費を増やせという。お隣りの韓国に火を付けておいて、自分の国は自分で守ったらどうか―と。

ところで、日本の国民感情というものは、いったいどうなっているのか。

無反応、無感動みたいである。

抜けがけで、イラン原油を買った商社の立場もよく判る。アメリカの立腹もよく判る。イランに対しては強い態度にも出られない。

しかし、大平さんの国会答弁のような、煮えきらない態度は、結局アメリカも、イランも、そして自由諸国も激昂させるだけで、日本は追いつめられる。

戦前は、連合艦隊と無敵帝国陸軍を擁していたから、この辺まできたら、恐らく軍閥は戦争の準備にかかっただろう。今は民主平和の国だから、外交手腕で切り抜けるしかない。

要するに全方面外交、八方美人の落ち行く先は、うたかたのものでしかない。

国民は、生活水準を下げ、耐乏していく事になるが、日本人は順応性があるから、政府批判をしながら対応していくだろう。

一九八〇年代は不快な10年になるだろうと言われているが、その事をまるで示唆する昨今だ。

●編集部註
 米国の不幸は、第二次大戦後、日本での占領政策があまりにもうまく行き過ぎた事ではないか。その後ベトナム、中東と、対戦相手をどうも舐めていた節がある。

 このような事件も半世紀くらい経過すると、フラットな視点で事の経緯を眺める人達が登場する。プロパンガンダではない文学や戯曲、映画の題材になり始める。

 この事件から33年後の2012年に「アルゴ」という映画が人質に取られた側の米国で作られた。

 何故人質を取られるような事態になってしまったのか。冒頭でフラットかつ簡潔に描かれている。

 余談だが、この人質事件以降、シュレッダーは大改良を余儀なくされた。