昭和の風林史(昭和五八年十二月二十一日掲載分)

踏んだらしまいという事

高値における出来高増大は煎れのシグナル。当限納会が年内最大の山場である。

小豆は売り玉で上げ、買い玉で下げる相場になっている。

一巡煎れ出尽くすまで、売り方は辛抱できるかどうかのところ。

年内余日少なく、買い玉も利食いに入るところだ。

当限納会が大きな山場で楽観は許さないが、出来高急増を見ていると、かなりの売り玉が踏んだ。

先の方の限月も、期近にサヤ修正していた。

農作物の自由化は与野党伯仲で完全に遠のいたという見方がなされている。

しかしアメリカがどう出てくるか判らない。

なにが難しいかといっても小豆ほど難しい相場はないそうだ。

いま小豆をやっている人は相場経験豊富な人ばかりである。

現物の俵が読め、輸入数量が判り、IQ商社のポジションが鮮明でホクレンの価格支配が効果を挙げ、市場の玄人の戦術的手口がストレートに反映する。

取り組みが薄い事、出来高も少ない事、誰が売って誰が買っているかが、マルで顔つき合わせたように、狭いムラの中の出来事のように判る。

だからやりにくいという人もあれば、だから面白いという人もある。
市場の特性というべきか。

相場は勝つ時ばかりでないから逆境にある時はいかに対処してゆくかのテクニックが最後の決め所になる。

相場に曲がるのは誰が悪いわけでもない。自分が悪いのである。しまったら仕舞えが仕舞えなかったから苦労した売り方である。

●編集部註
 今回の文章を読むと、もうこの時点で小豆相場のマニア化が始まっている点が見受けられる。
 全てのジャンルはマニアが見つけ、一般に波及し、新たに生まれたマニアが新参者を排斥し、終焉に向かう。復活する場合は、また新たなお客さんが入ってくる何らかのフックが必要になる。そのフックがマニアには気にくわない。かくして、古参も消えていく。
 この流れをプロレスやアイドル、麻雀、競輪や競馬などのギャンブルの世界で何度か目の当たりにした事がある。
 株式市場でも見た事がある。愚にもつかない株式相場の漫画が雑誌に連載されると、それは一つのシグナルだった。ただ「インベスターZ」だけは唯一の例外であった気がする。最後あたりの話は酷いものだったが…。
 ついぞ、商品市場に新たなブームへのフックは現れず。マニアと霞が関の「凡庸な悪」に阿った結果がこれだ。ただ天才は忘れた頃にやって来る(星新一)という。これからなのかも知れない。