昭和の風林史(昭和五八年七月二三日掲載分)

売るから高くなるばかり

役所のヘッジ督促もヘッジ尽くせばそれ以上は売れない。また採算もあろうし。

農水省が売り仕手だから、この小豆ぶっ叩けと売り大手は役所の発言を錦の御旗のようにいう。

定期の安値を売ったホクレンが、農水省に泣きついている―と巷間噂される。

売り方は先日の安値で売り玉をふやした。

売り崩しに行った玉が捕まったわけだ。

役所が売り方に味方するような発言をしたのかどうか判らないが、かなり売り方が熱くなっているのは確かだ。

相場は熱くなったほうが負けである。

売り方の踏み。買い方の利食い。淡々とした場面。

土用に入って産地の天候は回復の兆しがない。

完全な土用潰れである。

新穀(11・12限)が伸びる割りに古品限月の伸びがぬるいが、これはあとからまた見直される。

当面の天王山は納会である。値が出れば洗いざらいの現物をぶつけてくるだろうし、安ければ親引けは見えている。

とにかく売り方の持っている現物は虎の子である。

ピンで50万円以上も打たれている全軍を救出するために虎の子師団を最も効果の挙がるところに投入するのは戦略兵法として当然だ。

それによって流れが変わるだろうか。

売り方は、兵力の逐次投入という最も悪い戦術を繰り返してきた。

いずれは総懺悔の時がこよう。

買い方は高いところは利を入れている。そのたびに力がつく。

押してくると買う。やはりこの相場のストーリーを知っているから迷いがない。

全般の空気としては、弱気にあきらめムードがただよってきた。

ただ、七千丁も八千丁も引かされた玉を踏むのは確かに苦痛だ。しかしいっておれない時がくる。

●編集部註
 登場人物は違えど、小説「赤いダイヤ」のシチューエーションと非常によく似ている。偉い人に泣きつくと何とかなる環境を持っているとはつくづくうらやましいいものである。
 商品相場の健全にして残酷なところは、大半の銘柄に期限があるというところであろう。どこかで差金決済しければならないのだ。
 相場に曲がったらと言って何とかしろと泣きつくような甘ったれに未来はない。大抵どうにもならないばかりか更に悲惨な状態になるのは相場の常。素直に謝って損切りするしか他に道はない。
 得てして世間一般で〝偉い〟とされる人たちは謝るのが下手である。それを最近、我々は目撃した。