昭和の風林史(昭和五九年四月十九日掲載分)

小豆はまだ戦場への道中

小豆買い方の足並みは必らず乱れるというのが弱気の見方だが、買いたい弱気も多い。

大阪穀取の取引員協会の児玉会長が五月の総会で降りて藤田氏が後任に内定した。

小豆相場のほうは中国小豆の安値提示にもかかわらず地合いは強い。

この強さは、やはり今年夏の天候に対する不安が底流にあって、もう一ツは各地に群雄の割拠という“動的”な気配が、心をときめかしているようだ。

一方、売り方にすれば五月、六月の中国小豆入荷や、予想を上回る冷凍小豆の輸入など、あるいはまた台湾小豆の値下がり気配等を見越し(1)六月限の規制強化、(2)買い方の(いずれは)足並みの乱れ、(3)短期決戦、(4)現物は持ちたくないという買い方の一部、(5)六月崩し青田ほめコースと見ている。

小豆の好きな投機家は、筋店等からの煽り立てるような強気のトークで、この夏の相場に賭けてみようと心が動きだした。

全般的な流れからいうと“買いたい弱気”(安値で買いたい)が多い。

現在は戦場に向かう道中のようなもので、もっと場面が煮えつまってからでも十分間に合うという見方。

狭い市場だから誰がどうした、彼はこういう考えだ、誰それは受けたくないなど、克明な動向が、まるで襖(ふすま)越しの隣の部屋の様子のように伝わって、その事ばかりにとらわれると、大局を見失う。

買い方の一応の目標地点は現在値から千五百円ほどの上値であるように聞く。線型としては先限一万六千百五十円(三万二千三百円)を買い切ると放れ駒で、七、八限の三万三千五百円→四千円もトレンド上ではマークできる。

ただ、これは誰もが思っている事だが、個性の強い相場師ばかりの買い方の顔ぶれだけに、早逃げするのは誰か、ばば摑みは誰かと詮索しきりだった。

●編集部註

 この頃の小豆相場は、価格の平準化機能の一翼を担うべく、豊富なデータと研ぎ澄まされた五感を駆使して投機の海にいざ飛び込まん―という格好の良い惹句はつかぬ。やっている事は、壮大なババ抜きと一緒である。 面白い、そんなに気宇壮大なババ抜きなら一つやってみようじゃないか―と、酔狂な旦那が世情を振り返る事なく投機に興じるそんな世界になりかけている。

 もっとも、この頃はバブルの夜明け前である。投機の世界だけではなく投資の世界でも、このような酔狂人や、ギラギラとした眼差しの御仁達が富を築き始めていた。