昭和の風林史(昭和五九年四月六日掲載分)

株式に人気が移っている

なにに投機すべきかを誰もが虎視眈眈である。株のほうに人気が行きすぎている。

昨年から今年にかけての各商品の激動相場で、投機家層は、随分いたんでしまった。

また、高値の買い玉、安値の売り玉が回転利かず息をひそめている。

折りから証券界のほうは大好況期に入り、投資家の目は株式市場に釘付けされ、資金もそちらに随分移動した。

更に新種の金融商品にもお金が移った。

景気のほうは回復しているが、全般にわたっての回復ではなく、好況部門と不況部門の差は大きい。

商品界の投機層は、中小企業の経営者や商店の主人、いわゆる自営業の人のウエイトが高いが、去年の相場で打たれたり、自分の商売がうまくいかなかったりで、市場から去った人も多い。

このような状況でも魅力ある相場が、人々の心をかきたててくれれば、ベテラン投機家たちはなんとしてでも市場に復帰してくるのであるが、商品界全般を見渡して、いずれも兄たりがたく弟たりがたしの、抜きん出た動きがない。

農林水産省の商業課が、アンケート調査をしてあなたはなぜ商品相場をするのか?の問いに、相場の損を取り戻したいため―と答えたパーセントが意外に高かったことがある。

投機戦線の現役から予備役に退いている人でも、一朝事あれば現役復帰を常に心待ちしている人は多いのである。しかし、いかんせん、いまのところ投機家雲集の吸引力ある値動きが各商品見渡して希薄である。

しかし、世界的な異常気象や、日本の今年の大雪など、今年の夏のシカゴ大豆や北海道小豆、あるいは砂糖の生産地など気象に絡むドラマを期待しない人はいないのである。

商取業界のパイは小さくなったが、大きくなる日を待つ姿の現在だ。

●編集部註

 風林火山もこの時、芥川龍之介がいう所の「将来に対する唯ぼんやりした不安」を商品先物取引市場に対して薄々感じていたのではないか。行間からにじみ出て来るのはワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」の最終夜「神々の黄昏」のラストのようだ。ジークフリートを失ったブリュンヒルデは、彼の指輪を手にして炎に身を投じる。

 相場は復讐の場ではない。取り返そうと思えば思う程、手にする利益は少なくなるどころか新たなマイナスを生み出す事が少なくない。農水省商業課もそんなアンケート結果が出たら、何らかの指導をすべきである。リテラシーの高さは〝民度〟の高さに比例する。対策を講じるべきであった。