昭和の風林史(昭和五七年四月十日掲載分)

来週から下げ足を速める

買い方の防戦買いは流れに逆らっているようなものだ。相場は人為の及ぶところに非ず。

小豆相場のトレンドは綺麗な肩下がりの中にあってこれが来週から下げ足を速くする格好である。
一般に、まだ買い方の反撃を警戒して掴まらぬよう用心深いが、買い方は買い過ぎているため守りは、攻めの三倍の兵力を必要とするから、きつい追証の攻めを受けると案外モロイだろう。
特筆すべきは期近限月が重い。これをいうなれば〝死に体〟である。
当限から下げの千円棒を入れるという事は、これまでとは相場の流れが、まったく変わった証拠。
期近限月は現物の重圧と、高値買いのモタレ、そこに日柄の疲れがきているから、納会待たずに、ひょっとしたら、ひょっとの暴落がくるかもしれない。
要するに相場の基調が、まったく変化してしまったのである。それは輸入商社のヘッジ売りの姿勢を見れば判ろう。
罫線は〝天地返し〟である。昨年10月、11月のWボトム、即ち三川(さんせん)型を高値でひっくり返した三山(さんざん)型。
小豆の春天井は54年は三月。55年も三月。昨年は二月。そして今年も二月だった。
これは季節的リズムである。そして春天井は五月崩しに向かう。この五月崩しがないと夏相場が買えない。
買い方にとっては千丁も千五百丁も引かされては苦しいから防戦買いを先限に入れる。
だが結果的には買っただけ悪くなる。それはトレンドに逆らうからだ。要するに相場の大勢は下げに入っているのだから人為の及ぶところではない。
来週は本格安で四千円を割るだろう。

●編集部註
 恐らくこの頃の商品取引会社に行けば、全国どの店でもどこかのフロアにローソク足や十勝などの気温を記録した罫線用紙が張られていた筈だ。
 穀物相場を得意としている相場師は往々にして季節に敏感である。小説『赤いダイヤ』でも主人公と小豆買いの巨魁が初めて出会う場面は海であった。褌一枚で海に入り、身体で海水温を感じて北の小豆畑を思うのだ。
 巨魁は北の大地で苦労する小豆生産者のため侠気から買い本尊となったが80年代はこの小説の舞台から20年以上経ち、時代は日米経済摩擦の主戦場が自動車や農産物となった時代だ。「農協」という言葉は良くも悪くも既得権を持つ旧勢力のアイコンのように見え、自由化論者の格好の攻撃対象になり始めたのはこの頃辺りからではないか。