昭和の風林史(昭和五七年六月二十六日掲載分)

おみやげつきのS安とは

売り屋は煎れない。買うだけ買ったあとは買い屋が自滅する。売り屋は待つだけ。

小豆は買い方が買わないと緩む。傾斜地のレールの上に重い荷を乗せたトロッコがあって、強気が懸命に押している。

52年相場で敗北した本田忠氏が、当時『とにかく五枚でも十枚でも買わないと気の持てない毎節で、三時の大引けが済むとガタガタと力が抜ける毎日だった』と、買い大手苦戦中の心境を洩らした。

買っていないと気が持てない。判るような気がする。戦時中、艦載機の機銃掃射に、憲兵がピストルを抜いて撃ちだしたのを見て、弾がとどかないのに―と思った。弾がとどく、とどかんではなく、気がそうさせたのである。

先週の〝大暴落線〟週間棒の支配下に今の相場は置かれている。

二月8日―13日、六千円を抜いて10日天井した時の大暴落週間棒が12週間支配して四千八百丁を下げた。

先週付けた暴落線も、五千丁下げの威力がある。

買い方は天候に賭けるしかないが、時間が持つだろうか。納会受けて、六月限を煽っても今の売り方は煎れてこない。

人気は冷ややかである。強引買いしている時は敢えて逆らわない。しかし二枚三枚、二枚三枚のピラニアはどこまでも食いついてくる。これが怖い。

お金においといなかろうと、市場管理の面で問題が出てくる。いつの場合でも仕手戦は、このルール強化で行き詰まりがくる。

相場は相場に聞け。流れを上向きにしようと買い方大変な努力中だが、不思議にこの相場〝ぬるい〟そして〝おもい〟。中段もみ下放れの前ぶれか。

●編集部註
 眼前の上げトレンドに対する〝唯ぼんやりとした不安〟とでも形容出来ようか。当時の事は知る由もないが、行間からは腕力相場の匂いを感じる。 無理のある相場は、必ずどこかで反動が来る。だが、何処でその反動が来るかが判らない。よって不安はぼんやりとしたものにならざるを得ない。様子を見て、いざとなれば機敏に動くしかない。
 以上で相場に関する解説が終わってしまった。この頃の世相はどうか。
 この時期はカンヌ映画祭である。先日、是枝裕和監督が日本の作品として21年ぶりにパルムドールを受賞したが、21年前に受賞した作品を監督した今村昌平は、1983年に『楢山節考』でも同じ賞を受賞している。
 82年のパルムドールは米国映画が受賞したが、この時監督賞を受賞したヴェルナー・ヘルツォークの『フィツカラルド』という作品が面白い。
 題名を画像検索してみるとよい。如何に破天荒な作品か理解出来よう。