昭和の風林史(昭和五四年十月三日掲載分)

ホクレン次第 売られる為に高い

天下大乱なにより結構。上にでも下にでも相場が激動すること大慶事。高いと買いたい人がふえる。

「甲賀衆のしのびの賭や夜半の秋 蕪村」

もし取引所に金が上場されていたら、商取業界は、大変な事になっていただろうねと誰もが言う。

ブラックマーケットのほうの事は詳しく知らないが、新規は幾らでも集まるが、こう相場が沸騰していては利食い→増し玉→利食い→増し玉で、建玉は厖大にふくらみ顧客の買いを、どこにもヘッジしていないから、ブラック屋は、夜逃げするしかない。

いずれこの結末が大きな社会問題になる時がくるだろう。国会でのブラック市場に関するやりとりにしても、あるいは通産省の態度にしても、ブラックに対する決め手のないことがよく判るけれど、これも一ツの社会変動期における現象の断面である。

さて、この秋は何で年よる雲に鳥―は芭蕉の句だが、この秋は待望の、天下大乱の様相である。石油の再値上げ。経済秩序の破壊。円安。輸入原料高。ぺーパー・マネーの不信。換物人気。これから先、一体どうなるのか、考えても考えても判然としないから、毎週毎週書店におもむき、手当り次第、新刊書を購入。財のある人は、これを守るため、富を積まんとする人は、千載一遇のチャンス。昔でいえば戦国乱世、槍一本で天下の獲れた、まさしくその現代版である。

そういう恵まれた時代に、商品セールスマンはただ安閑と時を過すか。それは余りにも、もったいないのである。

ところで小豆相場のほうだが、弾みがついてきた。

次期ワク削減予想。輸入小豆薄。十月在庫減。ホクレンのヘッジはずしなど、弱かった市場人気を、相場は、ひっくり返した。

そこで、二万五千円というわけだが、五千円どころは、人気を一段と強くし、煎れも出ることであろう。

目下のところ、相場が強張っているから線型も買いを示している。

しかし、人気が充分に硬化すれば、積んだ石を崩す鬼が出てくる。

『なぜ小豆は高いの?』と聞いたところ、『あんたなにを言うの。売られるために高い―と書いているじゃないの』と一本やられた。

期近で二千丁戻しか。

まあ、高い事はよい事である。今月、来月と商いが弾んでくれない事には年が越せない。

今月中旬から秋の交易会だ。選挙が済めば動きが判りやすくなろう。

●編集部註
 金のペーパー商法で人口に膾炙した豊田商事が設立されたのは昭和56年。冒頭の文章を読む限り、既にこの頃から問題の下地は出来ていたと言える。