昭和の風林史(昭和五十年六月七日掲載分)

天に向かい嘆息 将軍戦いを語らず

買い仕手に期待をかけて投げきれない。士卒天に向かいて嘆息す。将軍むなしく戦いを語らず。

「鮎掛や浅間も低き山の中 碧梧桐」

穀物相場の大衆投機家は手亡相場から離れようとしている。激しく動くが、もうわけがわからんという。

新穀と旧穀のサヤ。ピービーンズの新旧別の格差。仕手筋の動き、前五本と先限の違った相場―。

掴み難いものが多い。

自然人気も離散する。

静岡筋は手亡戦線から後退し、再び生糸、乾繭市場に転戦する気配である。

またカネツ貿の買い仕手はグリコの株(仕手戦)で巨大な利益を挙げた某氏とも噂され、あるいは群馬県の某々氏らしいとも言われる。

果たして買い方主力のカネツ貿が、どこまでこの風向きの変わった手亡相場に耐えられるか。そのことに関心が集まっている。

カネツ貿の若林会長は気骨のある華麗な相場師である。市場では昔、黒糖仕手戦で一年二カ月にわたって現受け作戦に出たという実績を評価し、恐らくこの手亡仕手戦も、受けて受けて受けまくるのではないかと買い方は期待するのだ。

しかし、仕手戦が激しくなり相場が過熱すれば規制の強化も考えられ、自から行動に制約を受けよう。そこのところがつらい。

この時、手亡相場そのものを見れば、線型は明らかに天井を打っている。

仮に10月限売りの11月限買いで新旧のサヤ取りをするとしても10月限に集中するピービーンズは新穀限月にも必ず影響をもたらすことでそれが50年度大手亡の作柄・収穫高に強弱が絡むとしても大勢的にはピービーンズ輸入を刺激しただけ悪さが尾を引くと見るべきだ。

しかも手亡の先限はその線型に暴落線を刻み、これが六月5日の戻りを二番天井として四千円割れ→三千円割れに将来陥没していくことは、火を見るより明らかな事である。

10月限、九月限また落潮滔滔として四ケタ相場に埋没する運命。

今となっては若かった相場も、激闘の消耗に疲れ老いた感じがただよう。

三軍ことごとく衰老という場面だ。買いちょうちん筋は天に向かいて悲しまん。士卒草芒にまみれ将軍むなしく戦いを語らず。

すなわち知る。仕手戦なるもの是れすべて凶器。

已むを得ずしてこれを用いるも市場荒廃し、投機家離散す。

●編集部注
中立に分析記事を書くという所業は存外難しい。

内部外部の要因であれ、テクニカルであれ、強弱どちらかに傾きがちだ。

故に傾いても、反対方向に敬意をもって文章を書くよう心掛けている。

売り方にとって、この時の買い本尊は不倶戴天の敵。恨み言の一つでも吐いて留意を下げたい。

しかし、買い方にとって彼は文字通り後光が差している本尊なのである。

相場未体験者が多い証左か、嫉妬の国日本では、兎角相場の勝者に冷淡だ。リスクを取った勇気を称えるより「うまい事やりやがった」という心理が先に来る傾向が高い。

【昭和五十年六月六日小豆十一月限大阪二万〇九二〇円・二一〇円高/東京二万〇七九〇円・一七〇円高】