昭和の風林史(昭和五十年五月九日掲載分)

大なる相場へ いまその雌伏期

小豆の目先を狙って売るよりは、買いさがっていくほうが、余程気が楽であるし楽しみがある。

「風の香も南に近し最上川 芭蕉」

小豆の上旬高、中旬安という相場癖がまた出ている。

二月6日。三月10日。四月7日。五月6日。いずれも月の上旬に頭を打っている。

小豆の作付け面積が予想するほど減反にならないかもしれないという空気。

それは、天候が不順で、ビートの作付けが遅れている。ビートの作付けは一日遅れると一%。二日遅れると二%の減反といわれる。

ビートの遅れた分が小豆作付けに切り替えられるのではないか?と。

しかし、小豆の今の値段を見ては、生産者も二の足を踏むかもしれない。

ピービーンズ価格が軟弱なため、再び手亡相場が売られた。

手亡の買い玉の目立つ西田三郎商店の買い玉が整理されるまでは手亡相場の底は入るまいと見られている。
西田三郎商店では、三枚、五枚、十枚という買い玉が集まってこのような数量になっているという。だからあと千円下げようと二千円下げようと、十万円か二十万円の損という考えだから、値幅で整理される玉ではない。いわゆる南ベトナムの解放軍みたいな玉である。これが二、三人の顧客筋の買い建てなら、とっくの昔に整理が済んでいただろう。

西田三郎商店は、相場の強弱自由(もともと当然の事だが)で、売り方針、買い方針を店は打ち出さない。それでいて手亡がこれだけ買われているという事は市場の世論調査をしているみたいで参考になる。

手亡は結局全限一万円大台を割ることになるだろう。そういう環境であり相場つきだ。

それでも買い玉を投げない人が多い。それは投げると帳尻が出て、すぐ伝票がまわってくるのが怖いからで、判っているけれど投げきれない気持ち。

癌の宣告を受けても、万が一という神にもすがる心境に似ている。

手亡相場がそういうぐあいだから小豆もつい足を引っ張られる。

どちらかというと場のセミプロ、玄人問わず小豆に対してまだ買いづらい。むしろ目先二、三百円幅を狙って売ってみたい気持ちのようだ。しかしどうだろう。思うほど下がるまい。むしろ買い下がっていくほうが、余程気が楽だと思う。

●編集部註
神仏にすがっても、相場はどうにもならない。

相場は水物。事実、今回の文章で賞賛された西田三郎商店は既にない。

大阪は北浜に瀟洒なビルを建てたが、それすらも取り壊されてしまった。

【昭和五十年五月八日小豆十月限大阪一万六七五〇円・四四〇円安/東京一万六七一〇円・四八〇円安】