高値にも限界 崩れる日も近い
出回り遅れは事実だが、それも峠を越した。徐々に現物の重みが市場にのしかかる。
「ふいご祭屑鉄山と灯をわかつ 樵人」
昨日は立冬。きょう八日はふいご祭り。そして明日は一の酉。もうこれから年末まで早足な日々である。
ふいご祭りといえば陰暦十一月八日に鍛冶屋が行なう祭りで鍛冶屋のほか鞴(ふいご)を使う鋳物師や細工師などがこの日は鞴に注連(しめ)を張り餅や酒を供えて一年中使う鞴に感謝するものだ。
そしてこの夕方には蜜柑をまくのがしきたりとなっているので、この祭りの盛んな江戸では蜜柑がこの日は必需品であった。
ところが当時蜜柑は紀州(和歌山県)から江戸へ舟積みされて運ばれたものだが、ある年連日嵐が続いて江戸へ蜜柑が全然入ってこなくなり、そのために値段が鰻登り。
これを聞いた紀ノ国屋文左衛門が親戚から金を借り舟一そうにぎっしり蜜柑を載せ、舟の名前を「幽霊丸」と名付け決死の覚悟で大荒れの熊野灘を乗りきって江戸に蜜柑を運び大儲けしたのは有名な話。
いうなれば産地に品物は沢山あっても、輸送難で荷物が運ばれないため異常な高値となっているのに目をつけてサヤ稼ぎしたものだ。
今の小豆相場の高値を支えているのは有力な買い方の巧みな市場操作と、大量在庫と豊作をあてこんだ弱気筋の売りすぎからであるが、その買い方に味方しているのは出回りおくれ輸送難である。十月末の小豆の在庫のうち今年産新穀は僅か千七百四十三俵だ。
去年は十月で二万三千五俵もあったから、去年と比較すると八%にとどまる。
これでは消費地に六十五万俵の在庫があっても心理的にないものねだりとならざるをえないのも当然。
しかし去年のいまの値ごろは四月限でいうと九千三百円台。現在値はそれより六千円も高い。
世の中インフレだ。物不足だとはいいながらこの値でなお生産者が売らないとしたら経済によほど暗いといわざるをえない。
儲かるとなれば生命をかけて荷物を運んだ紀ノ国屋文左衛門の例もある。
輸送難、倉庫難などこれまで並べられた材料にいつまでも頼っていると、肩スカシを食う恐れもあろう。
音をたて崩れる日も近い。
●編集部注
罫線はこの月、高値切り上がり安値切り下がりになる。今後暫くこれを念頭にお読み戴きたい。
【昭和四八年十一月七日小豆四月限大阪一万五五七〇円・三〇円高/東京一万五四六〇円・六〇円高】