昭和の風林史(昭和四八年十一月三十日掲載分)

高値おぼえで 人気のみ強いが

高熱相場も鎮静化しよう。年内続落が予測出来る小豆相場だった。強気支配の市場に寒波襲来。

「大芭蕉従容として枯れにけり 草城」

総じて小豆に対する見方は『下げても浅い』という強気支配型である。

これを相場用語で〝高値おぼえ〟という。

先限の一万五千円を割った地点は、買い場探しでよい―とする見方がほとんどであるだけに一万四千円割れという、予想を裏切る相場も考えられる。

これまでの相場は、新穀の出回り難。(輸送事情の悪さと、農家の売りおしみ、先高期待の思惑)。市場規模を上回る巨大な買い方の存在と、買い連合形態の仕手がかった策動。そしてインフレムードである。また、砂糖市場からの大衆投機家の移動などが目についた。

しかし、一万六千円どころは値段の抵抗があって市場人気ほど値は軽くない。また期近限月は一万五千円台が居心地のよい水準と見受けられる。

産地からの新穀出回りが例年になく少量であっても、未曾有の在庫が消費地にあるため、品不足傾向でありながら現実面は過剰在庫の圧迫から逃げられず。しかも砂糖相場の異常高によって、小豆の家庭消費は完全に止まっている。

一方、産地農家も定期市場が強張っているあいだは先高期待で売りおしむが、年の瀬を控え、相場軟化を眺めれば、収穫したものは換金せざるを得ないだろう。

生産者が相場の投機家に変身すれば、必ずその裏目が出て、いざ現物を売る段になって安い値に泣かねばならない。

来年は作付け面積の減反になるという予想にしても、それは相場が安いときに行なわれる希望的観測であって一万五千円以上もしておれば、むしろ増反になるかもしれない。

また大幅減反なら、大量輸入の対策がほどこされるかもしれない。

インフレムードという病熱の上で踊っていた小豆の投機家群は、はっきりいえば、ある特定の一人の英雄的人物の行為行動に迎合、賛同し、期待しての提灯(ちょうちん)に過ぎない。乱世には時として偉大な英雄の出現を見るが役目を果たせば老兵となって消えていくのである。相場戦線の消耗は激しいものである。いかな英雄でも星条旗の如く永遠ではない。

●編集部注 
 昭和四八年十一月が終わろうとしている。

 手塚治虫が創設し、『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』など多くのアニメを創った虫プロダクションがこの月に倒産。困ったのは鉄腕アトムの名前を冠したプロ野球球団だ。

 この球団はチーム名を「アトムズ」から「スワローズ」に変え、現在に至る。

【昭和四八年十一月二九日小豆四月限大阪一万四八〇〇円・二七〇円安/東京一万四八八〇円・二二〇円安】