昭和の風林史(昭和四九年三月十四日掲載分)

ふーりん東南アジアを飛ぶ  ペナン8日発 鏑木発信

★誰も彼も言葉がヘン

ゴム・ミッションの一行に同行して、香港→バンコック→ハジャイ→ペナンとだんだん南下。明日は早朝マレーシアの首都クアラルンプールに入る。纒まった原稿を送る予定が連日32度~34度の暑さとスケジュールに追われ、頭の中はとりとめもない。ただメモ、メモで追われ、カメラの中の収穫も豊富。面白いことに誰も彼もが言葉つきが変になっている。日本の文法が崩れ、片言の英語や中国語などがまじって、それでどこへ行っても通じる。食事に関しては心配していたよりも口に合うのでみな太り気味。誰もが陽気に食べ、なんのトラブルもなくスケジュールを消化し、通貨の換算もようやくなれて、南十字星を眺め、赤道を越えてさらにな南下するこれからの旅程に強い自信を持っている。

★ゴムの樹も痛かろう

今朝タイ国立ゴム研究所でゴムの樹からポタポタと白い液が流れ出るところを見て感心することしきり。同研究所のフランス人所長は大変ユーモアのある方で、スモール・ホルダゴムの小農園は、ゴムの相場が高いとゴムの樹がどのように痛もうと一日に二回も採取するからゴムの樹はかわいそうだという。

★RASSの選別風景

昨日はハジャイの強烈で異様な臭いのする工場を見学。女子労働者は小学校二、三年ぐらいの年頃から二十二、三才ぐらいの年齢で、これらの人々がおよそ八十名。広いところでハサミを持ってRASSの選別に余念がない。ハサミの音と異様な臭いと暑さで大変な作業だと思った。この工場の名前もその時の説明も皆メモし、録音テープに入れてあるが、未整理(ゴム研究所所長の説明もテープに保存)。皆が協力して写真、録音、通訳、解説等を受け持っているため、帰国後これら資料が統合整理されたらかなりのものとなろう。

★頭はガンガンし通し

ところで小豆相場のほうはどうなっているのだろうか。不思議なことに、日本の国の事も相場の事も、まして会社のことも家族のことも、まったく頭の中にないのはなぜだろうかと思った。それは追われているスケジュールと暑さと通貨換算率や見聞することがあまりにも多すぎるため、頭の中が一杯になり、そういうこと以外考える余地がないからであろうか。

★帰るのが嫌になる!?

バンコックに行けばここに住みたくなり、ハジャイに行けばなんと物価が安いのに驚き、遠浅のソンゴラに行けばその地に永住したくなる。ましてペナンに来て、ペナンヒルからマレー半島を望めばもう日本に帰るのが本当に嫌になるような非常に危険な状態になるのは小生一人だけだろうか。

日本のようにあくせくせず、まったくのんびりとした風景、どこへ行っても本ものの味のする美味で非常に安い食物、南下するに従って人々の純な気持ち。日本には、もうないものばかりがここにあるように思う。

★だが物騒で、不衛生

しかし半面、水道の蛇口から出る水は絶対に飲めないことやバンコックのように裁判所でさえ賄賂次第で白を黒にし、黒が白になる法と秩序のない怖い面もあって、旅行者だから行った土地々々が信施インで強烈に見えるのだろう(税関で賄賂取られる)。

とりとめもない原稿になったが、場面が余りにも早く移り変わるため、頭の中の整理がまったく出来ていないことを知る。これは帰ってから充分に整理すれば充分面白い原稿が書けるのではないかと今から楽しみにしている次第。

★あすは本紙とご対面

明日の楽しみはクアラルンプールのホテルに当社の新聞が多分届いていることで、まず相場表を眺め、小豆相場を身近に思い出すことかもしれない。華人の新聞を買って読んでみるが、英国の政治と金価格ばかりが大きく取り扱われている。