ストック原稿(下) 見出しのない記事
きょうあたりの小豆相場は、どうなっている事だろうかと思い思い書き置きの原稿を書く。
「啓蟄の大地月下となりしかな 林火」
半月ばかりの旅行であるが、持っていこうかどうしようか最後まで迷ったものが二ツあって、一ツはお酒がコップ二杯きっちり入る魔法びんで、東京に出張する時はこれに熱いお茶を入れて行くか、お燗をした清酒かのどちらかが入っている。
〝相場と経済〟誌の藤野洵大兄は、小生がいつも風呂敷に包んだ魔法びんを大切に持ち歩くので笑うけれど、この魔法びんは車軸を流すような大雨の時に彼がついてきてくれて東京日本橋三越で買った外国製品だ。
インスタント味噌汁の粉末をこの魔法びんに投入してホテルの風呂場で熱いお湯を詰め、ジン・カクテルをバーテンがつくる格好でシェークすると立派な味噌汁が出来る。
パック入りの煎茶というのも大層便利なもので、グリーン・ティーのパックもこの魔法びんさえあれば外国では、調法だろう。
しかしそれよりもウィスキーを注入し、アイスウォーターを適当に注げば、長時間水割りウィスキーを保存できる。ただしコップ二杯分の許容量だから、すぐ飲んでしまうと空っぽの魔法びんを果てしなく持ち続け、みじめなことになる。
持参すべきかどうか迷うのは、荷物が嵩張るのと出国時、外国製品としていちいち報告するのがわずらわしいからである。
迷っているもう一ツのほうは愚妻が絶対に持っていくべきだと主張してやまないが、これは全然嵩張らないけれど、小生には必要性がないと自負している。
第一、夜は原稿を書く時間で多忙だしホテルの同室は東京ゴム取引所の謹厳をもって鳴る鈴木正武理事長おさし向けの同取引所の内田良一市場部長である。だから油断が出来ない。
それでなくても小生のゴシップ、スキャンダルを握ってやろうと虎視眈眈と狙っている輩が多いのに、外国だからと気を許すわけにはいかない。従って家内に厳然と左様なものは不要であると申し渡してあるが、もう少し考えてみようかと思う。なあに羽田の売店でも販売しているだろう―などと愚にもつかず迷う。
そして同行22名のメンバーリストをつくづくと眺める。左様、皆様真面目な人ばかりだ。そういうものは不用であるに違いない。
●編集部注
昔、商品業界には視察ツアーが多くあった。
洋行から戻ってきて、小豆の日足罫線に突発的にマドをあけて生じた陽線が、燦然と輝く〝星〟となっていて驚くだろう。
【昭和四九年三月五日小豆八月限大阪八月限大阪一万六六〇〇円・四六〇円安/一万六四七〇円・五二〇円安】