昭和の風林史(昭和四八年十二月八日掲載分)

業界最大の危機 過激な投機自重せよ

商品業界は最大の危機に直面している。全商品取引所の一時閉鎖は今のまま行けば現実となろう。

「しんしんと寒波来し夜の鴨の声 春潮」

今日は十二月八日。嫌な思い出が二重映しになる。今の世相。三十二年前の世相。先行きの見通しが暗かった事、物資欠乏による不安。

東京発岡山行き夜の新幹線ヒカリ号の乗客は多いが心なしか沈んでひっそりとしている。

最近、新幹線に乗って思う事は、どこか様子が違う。一年を通算すると筆者など三日に一度の割りで新幹線を利用する〝新幹線馬鹿〟である。半月ほど前からなにかいつもと違うと気がついていたが、やはり違う。ビュッフェの様子もホームの気配も以前とは違う。

人は多いが、暗い。そして沈んでいる。活気がない。陽気さがない。団体が少ない。車販もビュッフェも売れ行きが落ちているという事である。

日本人は日本中、とまどっているのであろう。

それは人形町の商店街も同じで、師走とはいえ、今一つ盛り上がりや活気がない。

活気があるように見えるのは商品投機市場だけであるが、これも、よく見れば明るさのある本当の活気ではない。

ある日、突然『全商品取引所一時閉鎖』というわれわれが恐れている事態に直面しないだろうか。

全商連、全協連、あるいは全穀連、各取引所、全繊協連や三砂連等、時局をわきまえて、なんらかのコメントの発表があってもよいのではなかろうか。

供給過剰時代の先物市場と、需要抑制、物資不足時代の先物市場とは、まったく事情が違う。

それぞれの商品取引所はもとより、各取引員、それと相場新聞等、過激な投機を呼ぶような姿勢は排除すべき時である。

綿糸、毛糸、生糸、ゴム、砂糖などの市場が行くところまで行けば、結局は尨大で凶暴な投機資金が残されている穀物市場に集中し、穀物市場を破壊してしまう。

≪全商品取引所の一時閉鎖≫―われわれは、それを恐れるのである。

窮地に立った政府は、なにを言い出すか判らない。生活安定法案にしても、実に厳しいものである。

商品業界は、戦後最大の危機に直面している。

その事を業界全体が意識しなければならない。

●編集部註
 昭和四八年に生きる日本人にとって、十二月八日はAKB48劇場の開館日ではなく、ジョン・レノンの命日でもない。

 真珠湾攻撃の日、つまり日米開戦の日。そしてこの年の八日、愛知ではデマから信用金庫の取り付け騒動が起きている。

【昭和四八年十二月七日小豆五月限大阪一万六〇二〇円・一三〇円高/東京一万六〇三〇円・二三〇円高】