昭和の風林史(昭和四八年十一月二日掲載分)

買い占め人気 家庭の主婦まで

スーパーや主婦の店などからトイレットペーパー、洗剤、学用ノートが姿を消した。

「芥子蒔くや風に乾きし洗ひ髪 久女」

十一月新ポ四月限は、買い方の積極買いで一万六千円指呼の間に買われた。三月限の上ザヤを買うこと七百円。市場人気は、いやが上にも強く、一万七千円必至の声が充満した。

買えば上がるという環境である。買い方の作戦は先、先と一貫した先限買いの方針を続け、十月新ポも三月限を五百三十円のサヤを買って、人気面に影響を与え、これが成功した格好。

東穀には、長期早渡し制度というものがあるけれど、ヘッジ玉が場勘で攻められることもあるので、輸送手段と倉庫の確保をしてからでないと、うかつにヘッジも出来ない。

時勢とはいえ、投機家支配の〝いびつな〟市場は取引所本来の機能を低下させているように思う。しかしそれも仕方のない異常事態かもしれない。

豊作年の出回り期に誰がこのような高値を付けると予想しただろうか。付けてみれば、付いた値が相場で、その理由の説明はつくわけであるが同時に釈然としないものもあるわけだ。

人手不足、生産費の上昇、輸送費の上昇。諸物価との比較。極端な輸送事情の悪化。倉庫不足。予想される来年の減反と不作。輸入不能。インフレ換物人気。巨大な思惑など、強気筋が二万円相場を口にするだけの背景はあるのだろうが、それらは、あくまでも一時的な現象に過ぎないように思うのである。

ここで買い人気に火をつけて相場が燃えれば一体どういう事になるだろうか。産地はそれでも売ってこないだろうか。ホクレンはそれでもタナ上げするだろうか。中国は幾らでも小豆を売ろうとするが、輸入外貨のワクがない。物価政策上、繰り上げ発券という手は、生産者保護と参院選控えで出来ないのだろうか。

現在、各地のスーパーは主婦が殺到してトイレットペーパーや洗剤、学用ノートが品不足になっている。この春は綿製品、毛織物などの衣類が買い占められ、デパートの売り上げが急増した。情報の発達した現在、人々は物価の値上がりだけでなく買い占めによる品不足に神経が敏感になっている。小豆も、その例に洩れないのかもしれない。

●編集部注
昔の邦画、特に現代劇を観ると、内容そっちのけで背後に映る街や店、通行人を見る事がある。
 
この記事も同じ感覚で読んでいる。歴史に名を残した事件を当時の文人はどう記していたのか。これが一般紙ではなく業界紙という点も重要だ。

【昭和四八年十一月一日小豆四月限大阪一万五五三〇円・東京一万五三四〇円】