昭和の風林史(昭和五八年十一月十日掲載分)

まさに月斜めならんとす

夜半の秋、風前幾人か老ゆ。月斜めならんとして相場まさに崩れんとすである。

大阪で金取引所主催の登録外務員講習会に通産省の担当官が講義したなかで本紙10月24、25日付け(三面)「難儀道」を全文皆に読んで聞かせたそうだ。『この通り。金屋は、時間の問題だ。金屋玉を受けている取引員は早晩白昼のもとにさらされる。皆さん会社に帰ったら社長、会長にそう言っておいて下さい』―と注意をうながす。

通産省は豊田商事に対してきわめて厳しい態度であるが農水省のほうは今一ツ事の重大さに対処する姿勢が手ぬるい。だからとは言わぬが金屋の玉は粗糖、輸入大豆(買い)に大手をふって事もなげである。

さてその金屋の小豆買い玉は八日でほぼ利食いを終わったそうだ。これから輸大と精糖を買っていく方針と伝わる。

小豆相場は今月中旬から下旬にかけて中国、台湾産の入荷がある。

強気は焼け石に水というが、だいたい端境期相場の山は越した。

輸入枠が早耳で千三百万㌦だったので玄人筋は弱気して、その売り玉が目算違いの輸入枠発表をキッかけに踏まされたわけだ。

買い方は、今もってカンカンの強気で先物三万五千円を信じている。

しかし、(1)煎れが出た取り組み。(2)強気指数72が六日続いた。(3)高値買いつく。(4)在庫が月末にかけて増加。(5)罫線全限売り線出現。(6)日柄十分。(7)行政面での上値抑制。(8)取り組み減少―という傾向は、相場の流れを変えるわけで、下げてみて初めて判る悪さかな―となるわけだ。

小豆の取引員自己玉は東西とも買いになっている。取引員にとっての自己玉は今年に入ってどうも鬼門のようで、これが買いになると相場は下がる。

風蕭々として易水寒し。壮士ひとたび去ってまた帰らずの心境で売れ。

●編集部註
 日本の商品先物取引員は、長きにわたり豊田商事の亡霊に悩まされ続けているのかも知れない。
 思えば、エンディングがあまりに劇的過ぎた。
 2019年3月、俳優でロックンローラーの内田裕也が亡くなった。
 彼が芸能レポーター役となり、当時話題になった事件現場に足を運び、取材する様子を淡々と描いた86年公開の映画「コミック雑誌なんかいらない!」。そのラストは、明らかにこの豊田商事事件で渦中の人となった永野一男会長が刺殺される事件現場の再現。刺殺した犯人役は、ビートたけしが演じていた。
 尤も刺殺事件は85年。83年の時点でお上が手ぬるくない対応をしていたらどうなっていたか…。