昭和の風林史(昭和五八年六月三十日掲載分)

勝者は勝ちやすきに勝つ

小豆の売り方は大勢に逆らっている。いずれ玉砕である。次は三万六千円が早い。

小豆は千円棒を入れないと絵にならない。

その千円棒を入れて、これをバネにして再び上昇波動に乗る。

買い方には力がついているが相場師でない悲しさ、押すと利食いを急ぐ。これは仕方ない。値が締まってくると元気が出てまた買いの手をふる。

利食い千人力でそれも悪くなかろう。

北海道のほうは、これはもう昭和九年型の凶作。

全道仮りに50万俵収穫としても二等検の20万俵あるかなしで、あとは三等やクズ豆だろう。となればヒネに値が出る。

産地農家は一俵四万五千円から五万円になるだろうと過去の経験を重んじる。

テレビの気象の画面に映らないサハリンのその上のほうに冷たい高気圧が停滞している。

七月中旬までどうにもならないお天気だ。

手口のほうは売り屋の売りである。買い方は芯になるところがいない。

だから面白いし、怖いのである。基調不変。日柄が若い。売り方は手負いで、最後の兵力を結集して相場を潰しにかかろうとするが万歳突撃のようなもの。

三万三千円あたりで時間調整をして、次は三万六千円である。いままでのところまだ九〇〇円のS高を消費地市場でやっていないが、七月は連発S高の熱狂となるはずだ。

とどのつまり行きつくところは四万円タッチという相場で、七月15日を過ぎると当限が一日二千丁高ということもあろう。

外割発券は売り方鶴首の援軍であるが、本年の需給は繰り越し30万俵の計算で心配はない。その意味でも急ぐことはない。ただ来年の需給を考えれば八月発券という事になろう。

それまでに売り方は刀折れ矢尽きる。玉砕してしまうだろう。勝者は勝ちやすきに勝つ。

●編集部註
 梶山季之の小説「赤いダイヤ」が発表され、TVドラマ化され、果ては映画化までされたのが1 960年代、文庫化されたのが1975年。一時は絶版となっていたが、文庫で復刊したのが19 94年。いまはアマゾンですぐに入手出来る。
 思えば、今回の生地で出て来る小豆相場の動きは、この小説の中で登場する相場展開とよく似ている。外割発券ではないものの、ある特例措置が小豆相場とその後の展開のカギを握っている。
 思えば、梶山季之も平成生まれで知る者は少なかろう。大正時代の島田清次郎のように、世世を経て忘れ去られる流行作家になるのだろうか。