昭和の風林史(昭和五七年十二月三日掲載分)

ガリバー的T社輸大買い

非常に危険な輸大市場である。相場強弱だけでなく業界存続の問題を含んだ危機だ。

輸入大豆市場が緊張している。

例のT社買いが継続され、一説には三万枚近い買い玉が、はまっているという。

三市場15万枚の取り組み(片建三万枚弱)のうち、これだけの買い玉が一本の筋となると、市場規模の大きい輸大市場であっても、影響は大きい。

伝え聞くところT社N社長は、買い玉五万枚目標。相場六千円。百億、二百億は取れるだろう―とスケール大きい計画を語っているそうで、商取業界は、敵地だから、敵の陣の中で戦う以上は負けない―とも。

15軍牟田口将軍のインパール作戦はジンギスカンの『敵地に糧を求める』故事にならった作戦だったが大敗した。

T社は商取界のカードを読んでいる。

中国大豆の20万㌧入荷は一度に入るものでない。

シカゴ逆ザヤではIOMの輸入契約も進まず、まして商社の穀取離れは当分続くとすれば、六市場の受け渡し玉が枯れるし、輸入中国大豆は実需向けに確保される。

また、10月、11月納会受けた仕手筋の買い玉をタンクする資力のパイプが太ければ、大きな市場も小さな市場。定期は売り方の玉負けで煎れ続ける。

取り組みは太り大衆は値頃感で売る。

六千円相場も夢でない―と思うわけだ。

されど、T社の思惑が成功すれば取引員自己玉大量売りの現在、業界は資金を吸い上げられ立ち枯れる。逆に、ふくらませるだけふくらんだT社玉を相場暴落が襲った時は、六本木小豆の二の舞いになりかねない。違約店の三、四社はあるだろう。

このように危険をはらんだ今の輸大相場である。

業界は、この事についてまだ震撼していない。恐るべきはT社の存在だ。
●編集部註
 戦争で最も大事なのは、戦力ではなく兵站(ロジスティックス)である。
 腹が減っては戦は出来ぬ―という単純な話ではない。それはパゴニスという人が書いた「山・動く」という本を読むと判る。
湾岸戦争の時、砂漠の地
に何万もの兵隊を、その兵隊が使う武器や車両、更には物量にして億単位の食料をどうやって届け、撤退となった時にどのように米国に持ち帰ったかが書かれている。
 牟田口廉也は全く兵站を考えていなかった。現地で牛を調達し、荷物を運ばせて、その後に食料にするという作戦を立案するが日本の牛と扱いが違い。輸送手段にも食料にもならなかったという。