昭和の風林史(昭和五七年十月二十日掲載分)

各市場建玉の老齢化現象

小豆は強気が増大しているから案外な崩れがくるかもしれない。輸大期近は天井。

商品によっては大きな取り組みがしこって玉の回転が利かない。

これは一種の建玉の老齢化現象である。

限られた投機資金が塹壕の中に張りついているから薄商いが続く。

小豆も極度の薄商いである。

もともと組織セールスによる小豆売買の委託は少ない。いまの小豆はマバラ大衆とはいえ、みな玄人である。その玄人の玉が塹壕の中で張りついている。

生糸、乾繭、砂糖、ゴム、そして輸大―と他市場に動員をかけた大隊も中隊も増証規制や相場動かず、まるで〝討匪行〟の歌の文句、どこまで続くぬかるみぞ―である。

建玉の老齢化は、相場の劇的な動きによるショック療法で若返るしかない。市場に酸素を吹き込むわけだ。

さてこの小豆相場、強気の人が多くなった。筆者も強気的見方をしたが、どうもいま一ツ相場に活力がない。これは薄商いだから―というだけの理由ではなさそうである。

大きなトレンドからいうと、二万八千円を割るコースを残している。

自由化問題、中国小豆の売り意向、台湾の作付け、北海道の売りもの、実需不振、薄商い―。

このようなものがミックスされて、万人予想もせぬ暴落が、ある日突然襲来するかもしれない。

値頃観、底入れ観、そして希望的観測による強気は、木っ端微塵に砕け散る時があるような気がする。

仮りに期近限月が三万円に乗せても三万百円、二百円絶好売り場となろう。

輸入大豆は名古屋の当限など品物がないというのに山高ければ崩れも厳しい。大阪当限も天井打ちである。当然二番限の崩れも見えている。ゆれ戻しを売るのが判りやすい。

●編集部註
 「討匪行」とは一体何かと調べると軍歌であった。
 その昔満州事件の頃、中国の抗日ゲリラの事を「匪賊」と呼んでいた。その匪賊を討つ行動の歌なので「討匪行」となる。
 ちょっと驚いたのは、作曲したのが日本のオペラの草分けにして世界的な歌手であった藤原義江という点。妹尾河童のお師匠さんでもある。
 当時は軍国歌謡という所謂プロパガンダソングがジャンルとして人気で、「討匪行」の作詞はアララギ派の歌人にして陸軍軍属であった八木沼丈夫が担当。この人物は戦時中に〝宣撫官〟という役職に就いていた。
 戦時中のプロパガンダは辻田真佐憲氏の『たのしいプロパガンダ』という本に詳しく載っている。