昭和の風林史(昭和五七年三月二五日掲載分)

小豆は崩れたがっている

下げるしかない小豆だ。横にはって時間を稼ぐかもしれないが、よけい悪くなる。

23日、東京金取引所の初立会前に報道関係者のため模擬立会いを行なったが、テレビ各社と報道各社カメラマンで東繊ビル金市場の廊下は立錐の余地もない。

御祝儀商いのうち三分の一ぐらいを占めたのではないかという山梨商事の霜村社長はホテルオ―クラのパーティの会場でNTVのインタビューのライトを浴びていた。『私は今の金の値段は買い下がるつもりなら、まったく心配ないと思う』―と。

霜村氏は、これからは金の時代だ。商取業界の夜明けだ―と希望に満ちていた。

金フィーバーに当てられたのか、この日の他商品市場の商いは薄い。

確かに金と為替が波乱を展開すれば、小豆にしても桑名が買ったとか、大阪は渡し物がないなどという話が、いかにもくすんで見える。しかし小豆には小豆の世界がある。

二月10日→三月17日の下げ幅の三分の一を、やっとの思いで戻した小豆。

もう少し横にはって、ストトンと落ちてくるチャートになった。

今度安いと三千二百円があるだろう。

23日、東穀立会見学場に、なにか薄黒い影のかたまりのような一団があった。中国のミッションだそうで、あのおばさんが冷女史だというが麗という感じとはほど遠い印象だった。

さて、強気の人が多い小豆である。六本木が買った。桑名が買った―と。

他人はどうでもよい。自分はどうなのかである。

小生は暴落必至の信念である。先限引値が四千円を割ったら、下げのホイッスルが鳴ったと思えばよい。信ずる者は売ったままだ。

●編集部註
 〝いかにもくすんで見える〟という表現は、何かを暗示していたと考えてしまうのは筆者だけであろうか。東京穀物取引所は既になく、跡地には、瀟洒さのかけらもない見方によってはいかにもエエここは高いですけど何かとでも言いそうな圧迫感の強いマンションがデデンとそびえ立っている。
 夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡 芭蕉
 円安は、円建て金価格を押し上げる効果がある。 この時、ドル/円相場のトレンド基調は円安街道まっしぐら。そんな中での金先物取引の開始は業界の念願であった。
 ましてやこの時、モグリの金市場関係者、金に絡んだ悪徳商法関係者が跳梁跋扈していた。世間のイメージは悪い。
 その中の一つが、あの豊田商事である。