昭和の風林史(昭和五七年三月十三日掲載分)

戻せば下値が深くなる!!

行ってしまうなら二千七百円彼岸底。目先戻せば再度売り。六本木が投げるまで安い。

彼岸の小豆手当てはとうの昔に終わって、先高予想だったので節句の分も手当て済みと現物流通に精通している人は言う。

小豆というものは、五月五日を過ぎると、バッタリ売れ行きが止まり九月十日まで商売にならんのですという。今年はまた特に消費の落ち込みがきつい―と。

天気と相場は西から崩れる。大阪は六本木がないから常に安場になる。

六本木筋は買うだけ買ったほうがよろしい。このあと第二陣として「晴れた日には伊勢湾が見える」の桑名筋が縁側に敷いた熊の毛皮の頭を叩きながら買い出動してくればなおよろしいが、六本木がこのように買ってくる時、手助けするのも面白くない。

六本木は買い方の強力な味方ではなく、買い方の邪魔ものの存在になる。

となれば六本木が投げたところを買おうというのが人情である。

取り組みは下げながらふえる傾向。このような時は下げの序の口と見る。

自己玉は、マバラ売り玉の利食い先行で自己の買いは急減。このあと自己が売りになれば、買い方は取引員と対戦の格好。

強気は大台三ツ変わりの四千円割れはあとあって五百丁。その下には半値押しの抵抗ラインあり―と。

また、役所が安すぎるなどと価格に介入するかもしれないね。今安いと次期枠を絞り込むかもしれない。

だから売り方も、いま大下げしてほしくないわけだ。とは申せ、相場は彼岸底づくりに先を急ぐ。

今週の週間棒はひどい悪さだ。呼吸からいうと三、五百円の戻りを入れるかもしれないが戻せば再び叩かれるのは見えている。

●編集部註
 相場師はゲンを担ぐ。
 〝縁側に敷いた熊の毛皮の頭を叩きながら買い出動〟という記述に、ついニヤリとしてしまう。1962年に刊行された梶山季之の小説「赤いダイヤ」で登場する小豆相場の買い本尊である大相場師、森玄一郎が全く同じ事をしているのだ。
 この小説が洛陽の紙価を貴むに至ってから、この時20年が経過していた。ひょっとすると、桑名筋は森玄の行動にあやかったのかも知れない。この小説はそれだけ人口に膾炙していたと言える。映画にもドラマにもなった。
 一方。売り方はどんなゲンを担いでいたか。
 茶室であったか和室であったか。香を焚き、床の間に源平合戦は一ノ谷の戦いで源義経が行った「鵯越の逆落し」の掛け軸をかけて祈ったと、何かの本で読んだ事がある。