昭和の風林史(昭和五七年三月九日掲載分)

寸を進めずして尺を退く

敢えて寸を進めずして尺を退くのが兵家の奥義。買い方はこのことを知っていない。

動かぬ相場の強弱も三日、四日は書けてもそれ以上になると、それも芸の内とはいえ、しんどい。

相場とはよくしたもので閑散の極点を過ぎると動きだす。

先週末は東京金取引所の取引員が決定した。

相場が閑なのは、経営者の関心が金取引所のほうに集中しているからだ―と冗談がいわれていたが、それならメンバー決定で、今週から相場も動くはず。

『国敗れて山河あり城春にして草木深し』と、金取引員に落ちたところの社長がいった。新卒採用が企業の命のところは、まさしく戦い破れる。

だが、第二次取引員募集は諸般の事情で、かなり早い目に作業されるようだから絶望することはない。

それよりも、金取引所の取引員でないところのほうが多いのである。そちらのほうを忘れてはならない。金取引員はセールス17名という制限がある。

金取引所は、これこそ本当の金看板だが、営業面での手数料収入は、さほど期待できそうにない。

やはり輸大は輸大だし、小豆は小豆だ。

閑な市場で相場が安くなりかけると買い方が買いもせぬのに買いの手をふる。買い方にすれば気が持てんのかもしれない。

そんな事をやっても相場というものは、下がる時には下がる。

二月10日に春の天井を打っているのだから、五千円の抵抗というものは、時間の経過で弱くなる。

強気は強気。弱気は弱気。それぞれ信念。

春風は賞するに堪えたり、また恨むに堪えたり―という。相場また賞すべし、恨むべし。

●編集部註
 この頃の金曜の夜、19時30分からテレビ朝日系列で「宇宙刑事ギャバン」が始まった。同時刻、日本テレビ系列では「カックラキン大放送」をやっていた事を思い出す。
 20時になるとテレビ朝日では「ワールドプロレスリング」が放送されていおり、アントニオ猪木がリングに上がっていた。同時刻には「太陽にほえろ」と「三年B組金八先生」が視聴率を争っていた。
 少し前から校内暴力が社会問題になっており、テレビドラマの題材になっていた事を思い出す。
 今と比べて、家族が揃って食事をとり、テレビを見ていたような気がする。
 スマホやタブレット、PCで好きな時に番組を見る事が出来る現在、昔は家族でチャンネル争奪戦が繰り広げられていたと言っても、信じてもらえないかも知れない。