昭和の風林史(昭和五七年二月八日掲載分)

基調緩まず見切り千両か

売り方、なにをいっても引かれ者の小唄か愚痴になる。男は見切り千両か忍の一字かだ。

小豆相場の強気は『この勢いでは当限三万七千円台がある。昨年九月14日の一代高値を買い切るだろう』―と。

二月限一代足は頑強な足腰ができて、その上に胴体が完成して、これから肩をつくり、その上に首と頭をのせるところだから、七千円どころはまだ肩の部分。従って頭は八千円、九千円あたりになっても不思議でない。本命中の本命は当限買いだ―と。

当限以外はすべて一代の新高値、しかも上昇角度が鋭角になって、今週あたりS高があっても不思議でないという空気。

取引員自己玉は(大阪)昨年七月のピーク七千七百枚買いに接近するふえかたである。

輸入商社も、農水省も、そして取引員も上げ賛成だから、相場を売った奴が悪いのだ―という論法がまかり通る。

相場は勢いだから、これから更に燃えさかろうとするところを敢えて売らない。そして場のほうは買い方にあらずんば人にあらず、鳥なき里の蝙蝠で、閑な節でも五十枚カイ、百枚カイの手がふられる。

付いた値が相場である以上、これまた仕方がないわけだ。

資力と根性のある向きは、なあに春の相場だ、高いほど需要は落ち込むし、百万の買い仕手といえど、利食い金は再び玉になって高値でひろがる。まして日柄の面で限界を過ぎ、今は腕力相場で仕勝っているが、相場なんて、そんなものでない。三万六千円が付くかもしれないが、奢る平家久しからずだよ―と見ている。

今週は、かなりきつい場面で辛抱できん煎れ場面になりそうだ。

●編集部註
 振り返ると、この年は春から縁起が悪かった。

 ケチの付き始めは昭和五七年二月八日の午前三時、草木も眠る丑三つ時の赤坂の、今は東京メトロ丸の内線赤坂見附駅近くにそびえ立つプルデンシャルタワーがある場所で起きた火災である。

 昔、この場所にはホテルニュージャパンという高級ホテルが建っていた。地下にはニューラテンクォーターというナイトクラブがあり、ルイ・アームストロングやナット・キング・コールなど海外の一流歌手がショーを行い、勝新太郎や石原裕次郎など客もまた一流芸能人であった。因みに力道山が刺されたのもここだ。

 この日、宿泊客の寝煙草が原因で発生した火事は鎮火まで9時間近くかかり、その様子がTV中継されていた。経費削減で消防設備が杜撰であった事が問題になると共に、当時社長を務めていた人物の態度が世間の顰蹙を買い、袋叩きの末刑務所に行く事になるのだが、大事件は、翌日も起こる。