昭和の風林史(昭和五四年十月十六日掲載分)

売って忘れる クリスマス頃には
 
お天気だけは申し分ない。各種相場のほうも、結構動いている。愚痴を言ってもはじまらん。

「紫の淡しと言はず蘭の花 夜半」

仕掛け妙味のない小豆相場を見切って精糖相場に関心が移っている。

精糖は、金・銀相場の刺激を受けて海外相場が助走し、助走の半ば頃から精糖独自の需給改善―というみずからのエネルギーで上昇を始めた。

いかなる商品にも、価格低迷→上昇→急上昇→天井→反落のサイクルがある。豚にも牛にもそれがあって、砂糖の場合は、ほぼ六年がシュガーサイクル。そのサイクルに乗って世界の精糖の価格が、上昇を示している。

国内市場も、久々で取引所取引が活気を見せだした。投機家もセールスマンも、精糖の基礎データを調べたり、ケイ線を引いたり、やはり相場は上昇波動に乗らなければ人気が寄らない事を知らしめた。

一方、小豆の市場であるが、困った相場になっている。

下値には生産者コストがある。上値は、ホクレンあたりが売り場を待っている。

中国での交易会も始まって、そのほうの成り行きも注目されている。

台湾のほうは、ぼつぼつ播種期であろう。こちらは超大型の台風の影響というものも無関心でおられない。

そのような、諸要因すべてをひっくるめて小豆のケイ線は、どのようなシグナルを出しているのかといえば、肩下がりで、先限三千五百円あたり取りにいく姿である。

売っておけばよい。まあ、とりあえず売っておけで、忘れていた売り玉が利益を生んでいる。

エキサイトするような材料出現の、可能性のない時は、売っておけばよい小豆である。

ただこの場合、大暴落があるとか、仕手崩れがあるという、そのような相場内容でないから、売るにしても安いところを売らず、少しでも盛りのよいところを売る。

商いが閑な市場だけに、玉を小口に割って、はめていかなければ、自分の売り玉で売り値を下げてしまうこともある。

ところで輸入大豆相場のほうだが、大阪先限七百五十円は急所である。いわゆる魔の水域。

傾向線としては、八百円あたりが付くかもしれない足取りだが、先限八百円(大阪)どころは、軽く売ってみたいものである。存外、クリスマスの時分には、思わぬプレゼントになっているかもしれない。

●編集部註
 酒場で往年の相場師から聞いた話である。

 ある相場師が砂糖の買いで引かされた時、彼は損切りせずに現物を受けたのだという。保管がしっかりしていれば、砂糖は腐らない。臥薪嘗胆で受けて寝かせ、リベンジを果たしたのだとか。

 酒の席なので単なるヨタ噺の類かも知れないが、ない話ではないと思う。