昭和の風林史(昭和五四年十月十一日掲載分)

無気力無感動 市場構造に問題が

投機家は阿呆でないからヘッジャーの餌食にならないよう用心する。所詮は安い小豆でしかない。

「実をもちて鉢の万年青の威勢よく 久女」

自民党の凋落について党首脳者が「天気にやられた」と言う。この言葉を聞いた時阿呆ぬかせ―と思った。天候相場じゃあるまいに。

自民党の思いあがりと精神構造の堕落に〝鉄拳〟が下ったのである。民衆は決して愚民ではない。

商取業界のほうは、国際商品が海外市況の高騰と円安の影響で砂糖、ゴム市場が比較的活発だ。

しかし、以前のように、大衆人気というものを、どの市場からも肌に感じるものがない。

本来なら、こういう世情だから商品相場の変動に、もっと関心が集まってしかるべきなのに、いまひとつ盛り上がりがない。

これは、取引員の営業活動に、微妙な変化をもたらした、新規20枚までの建玉規制が、やはり影響している。取引所当局者のチェックが、これまた厳しい。営業第一線の本当の苦労を知らない取引所職員の、あいつは馬鹿か―と思わせるような融通の利かない権威主義は、商取業界を衰弱させるばかりである。

業界が活況の時と沈滞の極にある時と、そこは自ずから取引所の運営、施策に妙を発揮させるが有能というものである。

『取引所の馬鹿どもが…』と、つい言葉の節々、なにかいう場合の枕言葉になるのも無理はない。

もちろん勉強している職員も多いが、概して取引員に評判のよくない常務や部課長は、頭の構造が頑迷で、権威主義で、しかも勉強をしていない。この種の職員の多い取引所には、まったく大弱りするのである。

いまひとつ相場に人気が寄らないのは、ヘッジャー主導型の市場になったことである。

投機家は、ヘッジャーのための犠牲者ではない。そして取引員の自社玉ポジションにも人気離散の大きな原因がある。

手数料率を低くするために売買単位を手直ししても、それは根本的な問題を解決しない以上、姑息な手段で賢明なる大衆は、すぐに見抜いてしまうだろう。目下大手取引員は営業マンの雇傭問題で試錬期にある。それはブラック・ゴールド市場のばっこにかかわる問題でもある。その事について業界上部団体はもっと真剣に対処しなければならない。

さて小豆相場は、安いようで安くないが安い―という虚無市場である。ヘッジャーのために犠牲になる必要はない。

●編集部註
 歴史にIFは禁物だが、日本の商品取引所はこの時、CMEを凌駕する事も不可能ではなかった。

 古くは星新一の父しかり、鈴木商店しかり、近年ではホリエモンしかり、新機軸を打ち出す人間や組織に、この国は冷たい。