昭和の風林史(昭和五四年九月二一日掲載分)

ドカ安もある 買い勢力壊滅状態

◇…絶望的である。チンタラチンタラやっておいてドカドカと一本の道に出る秋の下げ相場である。

「南無秋の彼岸の入日赤赤と 寸七翁」

◇…小豆相場は、ますます悪い。

この調子では先限の三千円割れから二千円そこそこまでの下げは、加速度がつきそうだ。

◇…相場が悪いということは、相場経験者なら百も承知の地合である。

だが、下降グラフに?まっている人が多い。

◇…基調の崩れた相場は地獄の底を見るまで止らない。今の小豆がそれである。

◇…下げ相場は、売ってから考えよ―という。基調崩れの相場を、なにがどうだから、ああだ、こうだという屁理屈無用。強弱垂れている間に値は消える。

◇…売り勢力と、買い勢力のバランスが崩れているのだから、強弱観など、ないはずだ。

◇…それは、値頃感無用という場面である。下げ日柄でいうと今月一杯は駄目だ。先限二万二千円を割ったら止まるかというと、それはどうだか判らん。

◇…古品小豆の圧迫。そして新穀のヘッジ。輸入小豆のヘッジ。

とにかく、取引所にヘッジしておこうという環境である。反して、買い方投機家は資力的にも気力的にも消沈してしまった。

◇…ホクレンは、ガリバー的巨大な売り仕手である。

取引員自社玉も、売り仕手的存在である。

中国も売りたい。台湾も古品を売りたい。

◇…一体誰が買うのか。

ほかならぬ、投機家、貴殿である。さしずめ〝汝らの双肩にあり〟というところであるが、汝らは痩せてしまった。松尾芭蕉ではないが「此道や行人なしに秋の暮」である。

◇…そういう相場だからチンタラ、チンタラ下げているかと思うとドカドカときたりする。

なにを言おうと、底が入るまであかんのだ。

土井晩翠の「星落秋風五丈原」。今の人は知らないだろう。丞相(しょうじょう)病(やまい)あつかりき―である。祁山悲秋の風ふけて、陣雲暗し五丈原―と歌ったものだ。零露の文(あや)は繁くして草枯れ、馬は肥ゆれども、蜀(しょく)軍の旗光なく、鼓角の音も今静か、丞相病あつかりき―と。

◇…相場には、投げ当りというのがある。投げたあと相場が更に安い時に言う。

あかんのだから、投げは早いに越したことはない。

つまらないプライドと強情で辛抱しても損を大きくするばかりである。あかん相場は、あかんのである。

●編集部註
 総悲観の時、大概節目をつけるから皮肉である。

 ちなみに今回登場した土井晩翠は『荒城の月』の作詞者として有名だが、ホメロスやバイロンの訳詩を日本で初めて行った人物としても有名である。