昭和の風林史(昭和五四年九月二七日掲載分)

未だ陰極遠し 売らず買わず黙然

◇…業界は陰の極だが小豆相場は、まだ陰の極までとどかない。陰の極とは声を発する者もなし状態。

「大いなるものが過ぎ行く野分かな 虚子」

◇…しばらくは強弱にならない小豆相場のようである。

来月は、九月決算も終るので―と言えば、それは、むなしい期待だと言う。

暑い盛り、高校野球が終ったら―と誰もが期待した。

商取業界の総売買高が四百万枚を越えたのは、去年の三月と六月。今年は二月と六月。

◇…誰かが言った。三ツの取引所の集合立会場予定のビルの工事が着々進行しているのを見ると、関係者は痩せる思いに違いない―と。商いは、大阪化繊も出来ません。大阪三品も出来ません。大阪砂糖もアキません。

三取、貧の底の寄り合い、立ち会い場だから〝三貧取引所〟だよね―などと悪い事を言うが、三人寄れば文珠の知恵。閑を打開する方法を見つけるべく目下努力している。

新しいピカピカのビルに移転すれば、取引所の経費も嵩む。この経費増を負担する取引所会員、なかんずく取引員は、痩せている。

◇…新規は出るのですが、回転しませんので―と言う。

相場が張りついてしまうのが一番怖い。

◇…昔は憲兵と、お巡りと教護連盟と、怖いものばかり多かった。戦後民主主義になって、怖いもんといえば、うちのカアちゃんと税務署ぐらいで、まあつけ加えるなら両主務省だよね。

この両主務省だって、財務面と、お行儀さえよくしていたら怖いことなどない。

ところが、相場様が張りついてしまったら、世の中これが一番怖いという事を今更知ったそうだ。

昔の人は天の神、地の神を怖れ、お供えをしてお祭りしたが、わが商取業界も相場様をお祭りする必要がある。氏子代表は、さしずめ新説邪馬台国の著者・清水正紀氏がよい。

祭主は、天下大乱、物価不安定―と大書した幟を立て、一心に呪文を唱えるがよい。必らず相場様は狂乱するだろう。誰もが言う。年末が思いやられる―と。

この現象は陰の極である。だから、きっと10月11月と出来高はふえるはずだ。事業でも人生でも悲観したらあかん。あすを煩うことなかれ。信は力なり。業界人が信念を持って、祭主の唱える『天下大乱・物価不安定』に和すれば、必らず業界は多忙となろう。

◇…そこで、輸大とは売るものなりと見つけたり―となり、小豆とは売られるために戻すもの―となれば、バッチリ型が決まる。

●編集部註
 東京にあったあるピカピカの取引所は、現在マンションになっている。 

その向かいのビルに入っていた商品会社も既に無くなってしまった。
 
変わらぬ光景は親子丼目当ての行列くらいか。