昭和の風林史(昭和五十年六月二日掲載分)

買い方自壊し 音たてて崩れん

ピービーンズで袋叩きという場面を見るだろう。手亡相場は音立てて崩れ落ちよう。

「瓜苗に竹たてありぬ草の中 虚子」

取引所のフロアーの温度が上昇を続けている。

小豆、手亡ともに売り方買い方熱くなった。

感情の火花が炸裂している。久しぶりに見る大きな勝負だ。

週末の一節手亡でカネツ貿が10月限八五〇枚、カネツ二〇〇枚の強烈買いの手口が目立った。

また雑豆輸入商社の三晶が10月限を一五〇枚と纏まって売り、過去に仕手戦を幾度も経験してきた山大が二〇〇枚売った。

山大の関口営業部長は『お陰様で小豆の買い玉はピークを利食いさせてもらった。お客さんは気分的にも明るい。そこで手亡の相場が、どう見ても実勢から離れ過ぎているので、これを弱気してもらった。買い方は、高値を支える格好に見える。われわれも過去に何度か経験してきたが、いまの買い方の相場心理状態は嫌というほど判る。あける時はあけ、ふるい落としを入れる時は入れる―という事が、玉の膨らみにつれて大きな負担になる。高い水準と尨大なちょうちん。場づらの面では、どう見てもこの相場モロイ感じがした』。

これだけの大きな取り組みである。あるだけの現物を受けて、値段を煽れば、ある程度のいう事を相場はきくが、それは相場の若いうちで、29日のストップ高あたりから、買い方に強引さと無理がはっきり見えてきた。

そして30日の相場など、小豆崩れになびかぬよう懸命な買い支えが判然と見えた。

市場の人気では、一万五千円とか、11月限の一万九千円という噂がもっぱらであるが、人気と相場は別のものである。

買い方の三市場に置ける玉操作や価格チェックを見ていると、戦いの山場は過ぎた感じだ。

〝熱くならない仕手〟と言われても、激戦のさなかになれば、もちろん闘志は満々、殺気立つのが仕手戦である。人々はその興奮を楽しむために相場をする。

すでに買い方は六千枚を超える買い玉である。

果たして巧妙に勝ち逃げ出来るであろうか。その答えは「ノー」である。

玉をさらにふくらませていけば、遂には自壊するのが買い占め戦の宿命である。買い仕手はピービーンズに魂を抜かれるのであろう。

 ●編集部注
 一騎駆けは合戦の華であると、隆慶一郎の「一夢庵風流記」にある。

 当時の商品先物取引はザラバでなく板寄せが主流。さすれば、各節でのストップハナ取りは相場師の一騎駆け」に等しい。

【昭和五十年五月三一日小豆十月限大阪一万八三三〇円・九〇円安/東京一万八四七〇円・六〇円安】