昭和の風林史(昭和五十年三月六日掲載分)

積んでは崩す 弱肉強食の場面

穀物業界期待の手亡相場が崩れて、また出直しの格好。業界が活況を呈するのは、もう少し先か。

「水温むとも動くものなかるべし 楸邨」

ピービーンズの値下がりが手亡相場に直接ひびいて期近二本は惨憺としているが、七、八月限の一万四千円割れを叩いて、これが一万三千円を割るというのであればまた別であるけれど、輸入のワクは限られているしピービーンズ値下がり分とドル安分とで数量を余分に輸入できると言っても、たいしたものではない。

要は、人気がおびえきっているだけで、投げが投げを呼ぶ格好だった。

これで大衆筋が、手亡相場を敬遠してしまわなければよいが―と懸念するのである。

近ごろの相場を見ていて感じていた事だが、先日、中井繊維の小倉社長が『大阪の証券市場の地盤沈下が言われて久しいが、うかうかしていると商品のほうも、証券同様関西は地盤沈下するのではないか』と気になることを言う。

それと同様に、取引所上場の商品の中で花形的存在であった小豆が今や取り組みは細り、商いも低迷している。穀物市場の地盤沈下は一体、なにに原因しているのだろうか。

人はいろいろ言う。いちいちもっともである。そして穀物単品業者が影をひそめていくのも事実である。

大衆の人気が集まろうとしていた手亡。いうならば、穀物業界としては金の卵を産む〝ガ鳥〟だったかもしれない。だが、無残にも潰してしまった。

これが勝負の世界とはいえ、育つものを新芽のうちに摘んでしまうのは惜しいことだ。

それだけ世相がせち辛くなったのかもしれない。いや、業界の底、即ち取引委の懐が浅くなったのかもしれぬ。あすの百より今日の五十という傾向が見られる。

こういうことが、更に速度をつけてくると、いよいよ穀物市場に大衆は寄りつかなくなる心配もある。

いや、それも相場、これも相場。相場の世界は弱肉強食であると割り切らざるを得ないか。

手亡は崩れたが幸いにして小豆が細々ながら期待をつないでくれている。せめて小豆だけでも大衆が納得できる動きをしてもらいたいものである。

しばらくは〝手亡崩れて山河在り、時春にして草木深し〟で春眠暁をおぼえずというところか。

●編集部註
昔より大衆が少ない。

これが現在の国内先物市場が大きく反映しない最大の問題点である。

【昭和五十年三月五日小豆八月限大阪一万七二三〇円・一一〇円高/東京一万七二五〇円・一四〇円高】