昭和の風林史(昭和五九年一月十八日掲載分)

2020年02月06日

信頼を更に失った市場に

『もうどんな事があっても小豆に手を出さん』という人が、また随分ふえている。

NY綿花取引所を舞台にした映画『大逆転』(トレーディング・プレース=立会場)が日本で封切りされ今月号の文春の“映画漫歩”欄でも紹介されている。

内容はオレンジ・ジュースの相場が一日で一㌦42㌣から29㌣に暴落してオレンジ相場で巨利を得、また大損する喜劇風の映画。

銀のハント兄弟にヒントを得たもので、ふんだんにNY綿花取引所の立会場が映され(約10分)、エキストラに二七五名のブローカー、クラーク、ランナーが使われ、エキストラ出演料は二日で百㌦だった。

アメリカの商品取引所の仕組みや、相場立会いの雰囲気、そして相場師の栄光と敗北の心理的葛藤など面白いし参考にもなろう。

ところで小豆相場のほうは映画のような大逆転があるか、ないか。

売り玉は精根尽きたところである。

当限は実質的な納会のようなもの。東穀市場は自粛され踏み玉に買い方が相わせているが、大阪、名古屋は武士の情けもなければ市場の将来もあったものでない。しかしこのことは小豆市場からいよいよ投機家が離れてしまうことになる。

イソップ物語りに金のタマゴを生む鵞鳥というのがある。欲張り飼い主が一日一個の金のタマゴが物足りなく、鵞鳥の腹を裂くという筋だが、いまの小豆市場、特に大穀、名穀の姿を見ていると、まさしくそれである。

欲望という名の電車は脱線するまで突っ走る。

すでに相場の強弱段階でないから、相場観など書かなくてよい―と多くの読者取引員筋からいわれる。

多くの委託者に、どう説明してよいか判らない市場の現在を、多くの取引員は憂慮している。小豆市場が滅びるのは仕方ないが、他市場の信用に影響せんかと。

●編集部註
 今回本文で紹介されている映画については過去の註で何回か採り上げた。それこそ、VHSテープが擦り切れるほど見た。
 元商取マンとしてでなく、単なる映画好きとしてである。
 若干、今回の記述と映画の内容は違う。邦題が〝大逆転〟とあるように、主人公〝たち〟がどん底から大逆転して冷凍オレンジジュース相場で大儲けし、ハント兄弟に準えた敵役の二人が取り返しのつかなくなる程に大損するというお話である。
 この敵役の一人を演じたドン・アメチーは戦前から活躍する名優で、若い頃はエルンスト・ルビッチの作品等に出ていた。
 60歳を超えても名脇役として活躍。この作品の次に出演した作品でアカデミー賞の最優秀助演男優賞を77歳で獲得した。